うちなーぐちで「とびはねるアリ」をなんという?

研究成果を沖縄の言葉に翻訳する初めての試みが行われました 。

jumping ants

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究成果が 国際的な学術誌「Integrative Organismal Biology」に掲載され、その論文の一部に、沖縄で古くから話されている言葉「うちなーぐち」の翻訳文が採用されました。今回掲載されたのは「Parallel and Divergent Morphological Adaptations Underlying the Evolution of Jumping Ability in Ants(アリの跳躍力の進化を支える並行的かつ多様的な形態的適応)」と題する論文で、要旨(論文の概要をまとめた文章)においてうちなーぐちの翻訳文が掲載されています。学術誌でうちなーぐちが使用されるのはおそらく初めてとなります。

うちなーぐち版の要旨
とぅんじゅる あいこー(うちなーぐちで 『とびはねるアリ』の意)の研究についてまとめた,うちなーぐち版の要旨
とぅんじゅる あいこー(うちなーぐちで 『とびはねるアリ』の意)の研究についてまとめた,うちなーぐち版の要旨

「研究成果を英語以外の言語で紹介する機会が訪れたとき、OISTの研究と沖縄の文化を結びつける方法として、うちなーぐちを思いつきました」と、研究を実施したOIST生物多様性・生物複雑性研究ユニットの主宰者で、本研究の上席著者であるエヴァン・エコノモ教授は述べています。「学内でEedee(えーでー)とよばれるグループが学内でうちなーぐちの認知度を高めようと尽力していることに感銘を受けていました。そこで、OIST職員でEedeeのメンバーの松田美怜さんと知花千亜希さんに協力を依頼することにしました」

この研究では、「ジャンピング・アント(とびはねるアリ)」の現象を説明しています。アリは歩いたり、よじ登ったり、時にはお弁当の一部を持ち去ったりすることで知られています。しかし、いくつかの種類のアリは、ジャンプする能力を持っています。OISTの研究者たちは、アリがなぜこのような能力を持つのかに興味を持ち、X線スキャンや3Dモデリングを用い、これらのアリが体長の何倍もの距離を跳躍できる仕組みを解明しました。

トビキバハリアリが飛ぶ瞬間をとらえたスローモーション動画
OIST
トビキバハリアリが飛ぶ瞬間をとらえたスローモーション動画

多くの昆虫はジャンプしますが、通常は弾性エネルギーを蓄積し、素早く放出するというメカニズムを用いています。「これは、指を鳴らしたり、弓矢を使ったりするときに起こるものです」とエコノモ教授は説明します。しかし、筆頭著者でOISTの博士課程に在籍するラザート・アイベコヴァさんを含む研究チームは、アリはこれとは異なるジャンプのメカニズムを持ち、そのことによって胸部の特定の筋肉が再編成され拡張されていることを発見しました。「興味深いことに、遠縁のアリでさえ、ジャンプ能力を獲得するために同じような進化を遂げているのです。違いと言えば、どの足を使ってジャンプするかによってわずかな差異が出る程度です」とエコノモ教授は話します。「このことは、進化がどのようにエンジニアリングの課題を解決するかを理解する一助となり、遠縁の生物間でさえ、なぜ同じような解決策がしばしば現れるのかという疑問を私たちに投げかけています。」

Lazzat Aibekova
OIST博士課程学生で本研究の筆頭著者であるラザート・アイベコヴァさん
OIST博士課程学生で本研究の筆頭著者であるラザート・アイベコヴァさん

この研究をうちなーぐちに翻訳することは、挑戦であると同時にチャンスでもあったと、知花さんと共に翻訳を担当した松田さんは話します。「うちなーぐちは継承が途中で乏しくなってしまったために、科学的用語などの語彙数が多くないことが分かりました。例えば、『筋肉』や『断面積』といった現代科学の呼称や概念を表す語彙は辞書には掲載されていませんでした。科学用語を把握し理解するために、松田さんは研究チームとやり取りし、言語学者の指導のもと、研究を翻訳しました。その後、松田さんは、より身近な専門家(うちなーぐち話者)であるご両親やご年配の先輩方の力も借り、最終的な見直しを行いました。

Chibana Chiaki and Misato Matsuda
研究要旨をうちなーぐちへ翻訳したOISTスタッフの松田美怜さん(左)と知花千亜希さん(右)
研究要旨をうちなーぐちへ翻訳したOISTスタッフの松田美怜さん(左)と知花千亜希さん(右)

「このプロジェクトは複雑なプロセスを経て、多くの人々の支援によって実現しました」と知花さんは話します。「私たちのうちなーぐちを守っていくためには、日常に取り入れることが大切です。うちなーぐちを科学分野やその他の様々なシーンで取り入れることにより、新たな道が開けます。このプロジェクトがそのことをはっきりと示してくれました。」

「沖縄とのつながりを再確認する作業でした」と松田さんは言います。「『とぅんじゅる あいこー』(うちなーぐちで 『とびはねるアリ』の意)の記事を通して、OISTが沖縄社会で担う独自の役割について、より深い理解が生まれることを願っています。」

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