微粒子を捕まえる技術-ナノマニピュレーションの汎用ツール
1ミリメートルの1000分の1しかないナノ粒子は、非常に小さいため、私たちの肉眼で見ることはできません。しかし、サイズは小さくても、多くの点で非常に重要な役割を果たしています。例えばDNAやタンパク質、ウイルスを詳しく調べるのであれば、ナノ粒子を分離して観察することが不可欠です。
ナノ粒子を捕捉するには、強電磁場が発生するポイントにレーザービームを強収束させる必要があります。レーザービームはピンセットのように粒子を捕まえることができますが、残念ながら、この手法には自然の制約があります。最も顕著なのはサイズの制約で、粒子が小さすぎるとこの手法は機能しません。既存の光ピンセットの技術では、単一のタンパク質のような直径わずか数ナノメートルしかない粒子を捕まえることは不可能でした。
ナノテクノロジーの進歩により、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子技術のための光・物質相互作用ユニットの研究者たちはこの度、精密ナノ粒子を捕捉する技術の開発に成功しました。研究チームはメタマテリアル(自然界では発生しない特性を持つ合成材料)を基に光ピンセットを開発することで、自然の制約を克服しました。この種のメタマテリアルが単一ナノ粒子のトラッピング(捕捉)に使われるのは初めてのことです。
「ナノ粒子を操作・制御できることは生物医学の進歩にとって非常に重要です。」と、研究ユニットのスタッフサイエンティストであり、Nano Lettersに掲載された研究論文の筆頭著者であるドムナ・コツィファキ博士は話します。コツィファキ博士は、ナノ粒子を捕捉できれば、がんの進行の確認や効果的な新薬開発、バイオメディカル・イメージング技術の向上につながる可能性があり、「社会の中で潜在的な応用範囲は非常に広い」と話しています。
新たな手法は、低強度レーザー出力を用いてナノ粒子を安定して捕捉でき、光による試料の損傷を回避しながら長期間使用できるという、2つの需要の高い技術を備えています。その秘密は使用したメタマテリアルにあります。このメタマテリアルは周囲の環境の変化に非常に敏感であり、それゆえ低強度レーザー出力の使用が可能になりました。
「メタマテリアルは独特なデザインと構造を持つため、その性質も特殊です。この特殊性ゆえ、メタマテリアルは非常に有用な材料となっており、この数年で、まったく新しいコンセプトと応用の可能性を持ったデバイスの新時代をもたらしました。」とコツィファキ博士は説明します。「そこで私たちは、50 ナノメートルの金のフィルム上にイオンビーム(微小な荷電粒子)を照射して、メタマテリアルから左右非対称のスプリットリングの配列を作成しました。」
この手法が機能するかどうかをテストするために、研究グループはデバイスを近赤外線で照らし、デバイスの特定の領域に20 ナノメートルのポリスチレン粒子を閉じ込めました。
コツィファキ博士の研究グループは、トラッピング性能の尺度を示すトラップ(捕捉)剛性を追求していました。「私たちが達成したトラッピング性能は、従来の光ピンセットより数倍高く、私たちが知る限り、これまでに報告されている中で最高の性能でした。精密ナノ粒子トラッピングに本デバイスを使用することに初めて成功し、この研究領域の進歩に貢献できたのは意義深いことだと感じています」とコツィファキ博士は話しています。
研究チームはこのピンセットを実社会での応用に使用できるかどうか確認するために、デバイスを微調整していく計画です。具体的には、将来、効率的かつ経済的に診断結果を提供する携帯型の診断ツールであるラボ・オン・チップ技術の開発に、本デバイスを活用できるようになるかもしれません。本研究は、生物医学における応用と並んで、ナノテクノロジーやナノスケールでの光の振る舞いに関して新しく根本的な知見を提供しています。
研究グループは、ドムナ・コツィファキ博士、研究ユニット主宰者のシーレ・ニコーマック教授、スタッフサイエンティストのヴィエット・ギアング・トルオング博士で構成されています。
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