ナノスケールで燃料に炎を点す

鎧をまとったナノ粒子により、燃料電池から得られるエネルギーが向上。

 世界的なエネルギー需要を解決する特効薬はありません。しかし、電気エネルギーを自己持続性のある化学反応からそのまま活用する燃料電池は、化石燃料よりも安価な代替エネルギーとなる可能性が見込まれています。

 燃料電池で起こるエネルギー転換をより促進するために、研究者たちは「貴」金属と呼ばれる特別な金属、例えば金や銀、プラチナなどでできたナノ粒子を電極の表面に分散します。このような貴金属は、マクロスケールでは他の金属ほど化学的な反応性が高くないのですが、ナノスケールでは、その原子の反応性が増します。このような金属からできたナノ粒子は触媒として機能し、燃料から電子を発生させる際に必要な化学反応の速度を加速します。一方、ナノ粒子を電極上に吐出する際、粒子同士はパテのようにつぶれてより大きなクラスターを形成します。このナノ粒子が凝集する傾向は焼結と呼ばれ、燃料分子がナノ粒子触媒と相互作用するときに利用できる触媒全体の表面積の減少につながり、その結果、これらの燃料電池において燃料分子が達成することができる最大ポテンシャルが阻害されます。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)のナノ粒子技術研究ユニットは、米国のSLAC国立研究所やオーストリア電子顕微鏡・ナノ分析センターと共同で、個々のナノ粒子をそれぞれ金属酸化物でできた多孔性シェルの中にカプセル化することにより、貴金属ナノ粒子の凝集を防ぐ方法を開発しました。OISTの研究グループは、この発見をNanoscaleに発表しました。本研究成果は、より高性能な燃料電池を開発するためのナノ触媒分野に直接応用することが可能です。

 OISTの研究者たちは、新しいシステムをデザインしました。まずパラジウムのナノ粒子を酸化マグネシウムのシェルの中にカプセル化しました。次に、このコア-シェル構造のナノ粒子を電極上に分散し、ナノ粒子で覆われた電極がメタノール燃料電池中の電気化学反応速度を向上させるかどうかを調べました。この結果、パラジウムナノ粒子のみを用いた場合に比べ、パラジウムナノ粒子をカプセル化することで著しく性能が向上することが明らかとなりました。

 これまでの研究で、OISTの研究者たちはマグネシウムとパラジウムのナノ粒子を個別に調べていた際に、酸化マグネシウムナノ粒子が貴金属ナノ粒子のまわりに多孔性シェルを形成することができることに気づきました。この鎧の役割の酸化マグネシウムのシェルが多孔性であることにより、燃料分子がカプセル化したパラジウムに到達することが遮断されることはありません。また電子顕微鏡写真から、酸化マグネシウムのシェルがパラジウムのコアとコアとの間のスペーサーとして機能することで、パラジウム粒子同士が互いにくっつくことがなくなり、最大反応ポテンシャルを達成することを確認しました。

 OISTの先端的ナノ粒子局所堆積装置により、研究者たちは実験パラメータを微調整し、カプセルシェルの厚みやコアとするパラジウムナノ粒子数を比較的容易に変えることができます。またナノ粒子の大きさや構造を変化させることで、用途に応じた物理・化学的特性を与えることもできます。

 「われわれの技術を用いれば、様々なのコアとシェルの金属の組み合わせを試すことができます。パラジウムより安価な金属、例えばニッケルや鉄などがその候補です」と、この論文の筆頭著者であり、OISTナノ粒子技術研究ユニットを率い、論文の責任著者でもあるムックレス・ソーワン教授のもとでポスドク研究員として実験に携わるヴィッディア・シングは述べています。

(ジョイクリット・ミトゥラ) 

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