青色ペロブスカイトLEDの安定化には左右非対称性が鍵

青色発光ダイオード(LED)の重要な課題である不安定性を解決するために、初めて左右非対称な分子架橋を使用した金属ハロゲン化物ペロブスカイト層を作製しました。

本研究のポイント

  • 金属ハロゲン化物ペロブスカイトは、次世代発光ダイオード(LED)の材料として有望視されているが、現状ではその不安定さが課題となっている。
  • 課題の1つは、電圧をかけた際に、ペロブスカイト結晶構造を構成するイオンが移動することでペロブスカイト材料の劣化を引き起こす「ハロゲン化物偏析」である。
  • 本研究では、青色LEDに使われるペロブスカイト材料の安定性を向上させるため、イオンの移動を遅らせる新たな方法で材料を作製し、検証を行った。
  • 新たな構造では、左右非対称な架橋分子を使用してペロブスカイト層同士を連結させる。
  • 研究チームは、架橋分子の左右非対称性により、ペロブスカイト層同士の間に小さな双極電場が発生し、イオンの移動を制限すると示唆している。

プレスリリース

発光ダイオード(LED)は、街灯や家庭用照明からテレビや携帯電話のディスプレイに至るまで、現代の生活には欠かせないものとなっています。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、金属ハロゲン化物ペロブスカイトと呼ばれる材料を用いて青色LEDを開発しました。この材料の作製において、初めて左右非対称の分子架橋を使用してペロブスカイト層を連結させ、構造の安定性を向上させました。

2021年11月18日付の米国化学会誌(Journal of the American Chemical Societyに掲載された本研究成果により、ペロブスカイトLEDの実用化が一歩近づく可能性があります。

 

OISTエネルギー材料と表面科学ユニットの研究チームが用いた新たな構造で、青色LEDの安定性が向上した。

OISTエネルギー材料と表面科学ユニットの元ポスドク研究員で、現在は中国の青島大学教授を務める本論文の筆頭著者のYuqiang Liu博士は、次のように述べています。「ペロブスカイトは、照明業界を大きく変える可能性を秘めています。ペロブスカイトLEDが電気エネルギーを光エネルギーに変換する効率は、わずか数年間で従来のLEDに匹敵するレベルにまで急上昇し、まもなくそれを上回るようになるでしょう。」

ペロブスカイトLEDは、現在市場に出回っているLED技術よりも、明るく純度が高い色を低コストで製造できる可能性があるため、効率以外にも多くの利点があります。

しかし、ペロブスカイトLEDの安定性は依然として大きな課題となっており、最も安定性の高いLEDでも寿命は数百時間程度にとどまっています。特に青色LEDは赤色や緑色のLEDに遅れをとっており、寿命は2時間以下で効率も半分程度です。

本論文の責任著者で、OISTエネルギー材料と表面科学ユニットを率いるヤビン・チー教授は、ペロブスカイトLEDをカラーディスプレイや光源として実用化するためには、白色を含む全色を作り出す必要があり、それには赤色、緑色、青色の光を混ぜ合わせる必要があるため、青色LEDがなければ、用途が限られてしまうと説明しています。

チー教授は次のように続けます。「青色の発光を作り出すことは、歴史的に見ても非常に困難でした。ノーベル賞を受賞した青色LEDは、初めに窒化ガリウムを使用して作られましたが、その開発は赤色や緑色のLEDに30年以上も遅れをとりました。今でも窒化ガリウムの結晶を大型で高品質に製造するのは難しく、コストもかかります。だからこそ、ペロブスカイトのような新たな青色発光材料の研究に対する需要が非常に高まっているのです。」

本研究で、研究チームは、青色ペロブスカイトLEDに見られる大きな課題の1つである「ハロゲン化物偏析」に注目しました。

 

金属ハロゲン化物ペロブスカイトの結晶構造では、金属原子(濃い赤色の球)をハロゲン化物イオン(緑色の小球)が取り囲む八面体構造(ピンク色)をとる。4つの八面体の中央には、陽イオン(オレンジ色の球)が存在する。

金属ハロゲン化物のペロブスカイト結晶は、ハロゲン化物が金属原子を取り囲み、八面体状に結合する構造をとり、これら4つの八面体の中央に陽イオンが位置します。

しかし、ペロブスカイトLEDを発光させるために必要な電圧を加えると、八面体構造を形成するハロゲン化物陰イオンが離れてLEDの正極側に移動してしまいます。また、八面体構造同士の間に位置する陽イオンも、LEDの負極側に移動します。このイオンの移動によりペロブスカイト構造が劣化するため、LEDの効率が低下し、青色が緑色を帯びた色に変化してしまうのです。

研究チームはこの課題を解決しようと、2次元ペロブスカイト結晶の層を重ね合わせた「Dion-Jacobson相」と呼ばれるペロブスカイト構造を用いて青色LEDを作製しました。そして、ペロブスカイト層同士を分子架橋で連結させ、構造全体の安定性を向上させました。

従来の研究で用いられた分子架橋は左右対称で、分子の両端が同じ形をしていました。

しかし今回初めて、両端が異なる形をした左右非対称の分子架橋を使用すると、ペロブスカイトLEDの全体的な特性に影響が出るかどうかを調査しました。

 

研究チームが2次元ペロブスカイト結晶の層同士を左右非対称の架橋分子で連結させて作製したペロブスカイト構造

 

研究チームは、架橋分子が左右非対称であると、ペロブスカイトの層におけるイオンの移動が遅くなり、ペロブスカイト構造の安定性が向上することを発見しました。

そして、この左右非対称性により、架橋分子における電子分布が変化し、ペロブスカイト層同士の間に小さな双極子電場が生じることを示しました。

「この双極電場がイオンの移動を妨げ、安定性を維持していると考えています」とチー教授は説明しています。

左右非対称の分子架橋を使用する戦略は、ペロブスカイトLEDにおけるハロゲン化物偏析の課題を解決するだけでなく、ペロブスカイト太陽電池などの他のペロブスカイトデバイスにも応用できる可能性があります。

チー教授は、「これは、ペロブスカイトデバイスの寿命向上に向けた顕著な進歩だと考えています」と締めくくっています。

本研究は、OISTの技術開発イノベーションセンターが提供するプルーフオブコンセプトプログラムの協力を得て行われました。

研究論文詳細

  • 論文タイトル:Spectral Stable Blue-Light-Emitting Diodes via Asymmetric Organic Diamine Based Dion–Jacobson Perovskites
  • 掲載誌: Jounal of the American Chemical Society
  • 掲載日: November 18th, 2021
  • 著者: Yuqiang Liu, Luis K. Ono, Guoqing Tong, Tongle Bu, Hui Zhang, Chenfeng Ding, Wei Zhang, and Yabing Qi*
  • DOI: 10.1021/jacs.1c07757

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