OISTの科研費採択数が過去最多に

2024年度科研費に採択されたプロジェクトの中から二つをご紹介します 。

学内での助け合いで科研費に挑戦う

科学の世界では、新たな発見があるたびに、研究をさらに一歩進め、私たちを取り巻く世界をより深く理解するための新たな扉が開かれます。ここでは、日本学術振興会(JSPS)と文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)助成を受け、本格的に始動しようとしている2つの研究プロジェクトを紹介します。

毎年、日本全国から多くの研究者が科研費に科学プロジェクトを応募していますが、OISTの研究者も例外ではありません。2024年度には、OISTではこれまでで最多のプロジェクトが採択されました。

ニューロンはどのように会話しているのか 

福永准教授の研究室では、脳に入ってくる感覚情報、特に匂いを脳はどのように理解しているのかについて研究しています。動物が匂いを感じるとき、空気中の分子が鼻の上皮にある神経細胞(ニューロン)の特定の受容体と結合します。そこから特殊なニューロンが、脳のそれぞれの領域に情報を伝達します。「これらのニューロンが互いにどのように会話しているのかを理解したいのです」と福永准教授は説明します。

福永泉美 准教授と博士課程の学生フ・シャオチェンさん
福永泉美 准教授(写真左)と博士課程学生のフ・シャオチェンさん。画像提供:知覚と行動の神経科学ユニット/ OIST。
福永泉美 准教授(写真左)と博士課程学生のフ・シャオチェンさん。画像提供:知覚と行動の神経科学ユニット/ OIST。

哺乳類の脳が匂いを処理する特異性の一つは、その情報を環境からどのように取り込むかにあります。鼻の中に匂いの分子があることは、息を吸うことと連動しているため、分子レベルでも嗅覚にリズムが生じます。マウスはしばしば鼻を使って積極的に嗅覚環境を探索することで、独特の呼吸リズムが作られ、それがニューロンの活動に反映されます。「これは嗅覚の興味深い側面の一つです。動物がリズミカルに呼吸することで、情報が脳に届く際に時間的なパターンを作り出しているのです」と福永准教授は話します。ニューロン間の電気信号をこのリズムに同期させることで、脳は匂いを処理する際にその活動を整理しています。 

まず、感覚情報は、鼻から脳へ、僧帽細胞と房飾細胞という2種類の特殊なニューロンを介して伝達されます。これらのニューロンは脳の異なる領域に行き着くため、福永准教授は、この時間的構造を利用してさらに活動を調整しているのではないかと考えています。「あるタイプの細胞は動物の嗅覚周期に合わせて活動を変化させるかもしれませんが、もう一方のタイプは変化させません。この時間的情報に基づいて機能的な区別を作り出しているのではないかと考えています」と福永准教授は説明します。

福永准教授は、博士課程学生のフ・シャオチェンさんとポストドクトラルスカラーのジェニン・ライナート博士とともに、科研費を活用して、このような細胞タイプ依存性があるかどうか、また神経細胞シグナル伝達における時間的リズムの機能的重要性とは何かを研究する予定です。「OISTに来たときから、この研究をしたいと思っていましたので、このプロジェクトを大変楽しみにしています」と福永准教授は話します。

サステナビリティを高める

本年度の採択者には、クリスティーヌ・ラスカム教授率いるパイ共役ポリマーユニットのメンバー3人(ラスカム教授含む)もいます。ラスカム教授は、半導体の構築に適した有機分子の研究を専門としています。「用語が紛らわしいかもしれません。 “有機”という言葉を聞いて、野菜の栽培方法を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね」とラスカム教授は話し、化学では分子はその性質の違いによって有機と無機の二つに大別されると説明しました。

クリスティーヌ・ラスカム教授、ポスドクのファン博士とハサン博士
クリスティーヌ・ラスカム教授(写真左)、ポスドクのファン博士(写真中央)とハサン博士(写真右)。画像提供:OIST.
クリスティーヌ・ラスカム教授(写真左)、ポスドクのファン博士(写真中央)とハサン博士(写真右)。画像提供:OIST.

「有機ポリマーを使えば、柔軟性のあるデバイスを作れるという利点があり、人体に組み込める可能性もあります」とラスカム教授は話します。人体の解剖学的構造と適合し、この半導体を診断機器として使用できるようになるでしょう。「いつの日かこれらの材料が産業用途で大量生産される日が来るとしたらと、その過程が環境面で持続可能かを考えることが重要です」とラスカム教授は続けます。ラスカム教授の研究室のこの二次的な使命が、科研費申請のアイデアにつながりました。

「研究室を立ち上げたとき、偶然、これらのポリマーをより速く合成する新しい反応を発見しました」とラスカム教授は話します。この斬新な方法によって、製造時間が1時間からわずか10分に短縮されたことで、大幅な省エネになり、プロトタイプの製造が容易になりました。「しかし、問題は、なぜこれほど速くできるのかがわからないということです。科研費を活用して、その謎を明らかにしようとしています」とラスカム教授は話します。このプロセスを理解することは、他の材料を製造する際にこの方法を再現する際に重要で、このプロセスを産業界で実装することも可能になるかもしれません。

また、ラスカム教授が率いるパイ共役ポリマーユニットとシーレ・ニコーマック教授が率いる量子技術のための光・物質相互作用ユニットで学際的ポストドクトラルフェローを兼任しているファトヒ・ハサン博士は、既存の問題に関して、環境に優しい解決策を模索しています。「ハサン博士の研究は、セルロースの潜在的用途に焦点を当てています。セルロースは植物に含まれ、生分解されやすいというのが大きなメリットです」とラスカム教授は説明します。このほど科研費(若手研究)採択されたハサン博士は、セルロースナノクリスタルの研究を拡大する予定です。「ハサン博士はこれらの材料の応用に取り組んでいて、例えば、光の反射板などがあります。これらは現在、かなり有毒な材料から作られていますが、セルロースに置き換えることで、より環境に優しくなります」とラスカム教授は話します。 

同じ研究室から、サマンサ・ファン博士も科研費(若手研究)に採択されました。ファン博士はマイクロプラスチックの研究をしています。「ファン博士は、海洋生物から検出されるマイクロプラスチックが、どのような種類のプラスチックで構成されているのかを特定する研究を行っています」とラスカム教授は説明します。動物組織の中から、分解できない粒子をフィルタリングするという非常に時間と労力のかかる作業を行っています。

そして、これらの粒子を顕微鏡で一つひとつ検査し、プラスチックか他の物質かを区別してから、さらなる分析が可能になります。「今回の科研費の採択により、ファン博士は、これまでは手作業で行っていたプラスチックの識別を、機械学習ツールを開発して自動化する予定です」とラスカム教授は話します。

外国人研究者にとって日本で科研費を申請することは大きな挑戦となります。言葉の壁に加え、日本の書式に不慣れであることや、研究プロジェクトの説明もこれまで慣れ親しんだものとは異なる様式が求められます。OISTでは、外部研究資金セクションがこれらの挑戦を支援しています。 「成功する申請書の書き方をまとめたマニュアルを作成したり、現在申請中の研究者が過去の受賞者から助成金申請書のフィードバックを受けるワークショップを開催したりしています」と、 OIST外部研究資金セクションのアシスタントマネジャー 藤松 佳晃さんは説明します。

学内での助け合いで科研費に挑戦う
過去に助成金獲得に成功した研究者が、次世代の研究者のためにメンターとして活躍している。メンターは助言をしたり、助成金申請書の草稿をレビューしたりすることで、同僚をサポートすると同時に、同じ分野の若手研究者と出会い、トレーニング・セッションでのモデレーション経験を積むことができる。画像提供:藤松佳晃(OIST)。 
過去に助成金獲得に成功した研究者が、次世代の研究者のためにメンターとして活躍している。メンターは助言をしたり、助成金申請書の草稿をレビューしたりすることで、同僚をサポートすると同時に、同じ分野の若手研究者と出会い、トレーニング・セッションでのモデレーション経験を積むことができる。画像提供:藤松佳晃(OIST)。 

「今回多くのプロジェクトが採択されたことは、大変喜ばしいですが、研究費の財源をさらに多様化するために、さらに採択数を増やしたいと考えています」と藤松さんは強調します。また、ラスカム教授は、科研費のような研究資金に採択されることは、資金調達だけにとどまらず、「日本の学術界とのつながりをさらに深めることにもつながります」と付け加えます。

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