魚に優しい歯型採取 - 非致死的な口腔研究が可能な新方法
魚を含む脊椎動物の歯を、生きたまま傷つけることなく、(時間を置いて)何度も調べることが可能になりました。
これまでの方法では、正確な情報を得るために小動物を安楽死させる必要がありましたが、研究チームは、脊椎動物の歯の特性を人道的に詳しく研究する新たな方法を開発しました。このカスタマイズ可能な方法は、生きた動物にも、博物館の標本にも用いることができます。研究成果は、学術誌『Journal of Morphology』に掲載されました。
カスタマイズ可能なトレーで、精密な型取りが可能
沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共同研究チームは、ヒトの歯型採取技術をポリプテルス・セネガルス(Polypterus senegalus)と呼ばれる魚の歯の研究に応用しました。この魚は、約3億6000万年前から他の魚類から隔離されてきました。ポリプテルスには、進化の過程で長期間隔離されていたために、原始的な特徴が多く残っており、硬骨魚類の初期の進化に関する重要な情報が得られます。
歯形採取プロセスは、まず動物を鎮静させることから始まります。そして、歯を優しくエア乾燥し、高粘度のパテ状の印象材で歯を清掃して口腔内を準備します。その後すぐに、より精密な低粘度のポリビニルシロキサン(歯科で広く使用されている印象材)を、カスタムメイドの3Dプリントしたトレーに塗布し、これを用いて詳細な歯形を採取します。この手順は全行程で、5分から10分で完了します。
研究チームが直面した主な課題の一つは、魚の顎が人の指ほどの大きさしかなく、個々の歯の長さが1ミリにも満たないほど小さいことでした。他にも、スキャン用の型を正確に切断する必要性や、歯の構造内部を見ることができないことが制約として挙げられます。しかし、研究チームは魚60匹でこの手順を成功させ、死亡例はありませんでした。この方法で歯形を採取することにより、長年の使用により歯の表面に生じる微小な摩耗のパターンである、マイクロ摩耗パターンを詳細に観察することができました。
非破壊的な方法による歯の変化を追跡
OISTのサイエンス・テクノロジー・グループに所属する歯科医で研究者のレイ・サラーン博士は、この方法が従来の技術に比べていくつかの重要な利点をもたらすと説明します。「以前は、研究者は標本を安楽死させ、CTスキャンやその他の方法で歯を研究する必要がありました。この新しいアプローチでは、生きた標本を非破壊的に調査できるため、研究者は魚の歯の生え変わりや経年変化を追跡することができます。傷つけることができない希少種や博物館の標本を研究する上で、非常に役に立ちます。」
この新しい技術は、さまざまな分野で幅広い応用が可能です。例えば、マイクロ摩耗パターンから、食生活を理解するのに役立ち、特に現生種と化石を比較して古代の食生活を解明するのに有効です。また、この方法は顎の生体力学の研究や、発育の変化の追跡、種を超えた比較解剖学の研究にも応用できます。
本論文の共同筆頭著者で、OISTゲノム・遺伝子制御システム科学ユニットの博士課程学生であるジョハネス・ウィビサナさんは、この技術がさまざまな動物の研究で汎用的に用いることができると強調します。「異なる種の間で共通する特徴を比較することで、食生活、成長、遺伝による変化を客観的に比較することができます。この方法により、種や個体間の違いを示す図表を作成することができます。さまざまな種から得られた歯の特徴は、分析のための貴重なデータセットとなります。」
現在、研究チームはこの方法で、より大型の魚類標本や他の脊椎動物を用いた新たな実験に取り組んでいます。特に、これまで生きた魚で定量化されたことのない歯の生え変わりパターンを研究することに関心を寄せています。永久歯を持つのは哺乳類だけで、他の脊椎動物は生涯を通じて常に新しい歯が生え変わります。
「私たちの方法は、多くの潜在的な用途があり、特に標本を扱い、生物多様性の研究を行う博物館や研究者によって広く活用される可能性があります。この方法によって、口の構造を安全かつ経済的に研究し比較することができ、以前は知ることのできなかった違いや詳細な情報を明らかにすることができます」と、本論文の責任著者で、OIST大進化ユニットを率いるローレン・サラーン准教授は付け加えました。
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