サイエンスとアートの新たな可能性:科学コミュニケーションの視点から
2024年9月26日、沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、東京にある国連大学本部において、科学コミュニケーションの視点で科学と芸術のコラボレーションを考えるトークイベント、「Science+Art: Creatively Communicating Research(サイエンスとアート:創造的に研究を伝える)」を開催しました。
OISTの広報ディビジョンが主催するこのイベントには、主に大学や研究機関、政府や企業などで科学や研究を一般に伝える科学コミュニケーションに関わる人々が集まりました。参加者は、科学とアートの協働を進めている5名の登壇者による最新の取り組みを学び、今後の科学コミュニケーションの可能性について考えたり、新たな着想を得ました。
会場となる国連大学では、OISTが加わる、国際的で学際的な博士課程教育を有する研究機関ネットワーク「BRIDGEネットワーク」による写真展「HUMAN-MODEL-WORLD:サイエンス写真展」(9月10日から10月7日まで)が開催中でした。参加者はまず、写真展を楽しみながら交流の時間を持ちました。
和やかな雰囲気の中始まったトークイベントでは、OIST広報担当副学長のヘザー・ヤングが進行を務め、国連大学のカイラ(キキ)・ボウマン広報部長からの挨拶とともに、国連大学の紹介がありました。
その後、5名の登壇者が、それぞれの活動について発表を行いました。OISTのSciArtコンサルタントであるイリアナ・メンドサさんは、アートキュレーターとして、OISTで行われるアートプログラムの企画や運営を担当しています。今回国連大学で開催したサイエンス写真展「HUMAN-MODEL-WORLD」のきっかけとなったのが、2021年に、OISTの設立10周年を記念して行われた「OISTサイエンスの写真展: 芸術の
アート・サウンドプロデューサーのニック・ラスカムさんは、今年からOISTと連携して開始した「OIST Sonic Lab」というプロジェクトについて紹介しました。このプロジェクトでは、周囲の世界を「聞く」こと、そしてその音を使って、人々のウェルビーイングを実現することを目指しています。海洋科学者と共に録音した海の中のサンゴ礁は、「パーカッションのような活気に満ちた音に溢れている」とラスカムさんは説明します。また、「アーティストは独自の視点で自分のためだけに制作活動をしていることが多いかもしれませんが、アーティストとしての責任も感じています。気候変動などの大きな課題に対して、この世界を知りたい、そしてどのような貢献ができるのか模索しているのです。アーティストと協働することは、科学の難解なコンセプトをアートを通じて伝える可能性を秘めています」と、アーティストとしての視点を話しました。
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構で広報を担当している坪井あやさんは、科学者と芸術家が出会って互いに考えを深める場である「ファンダメンタルズ」の創始者でもあります。そこでは、科学者とアーティストをペアにして両者による対話を促します。参加者にとってのメリットについて尋ねられると、坪井さんは、「参加者はとにかく幸せそうなのです」と答えます。交流を通じて芸術家が制作した作品やそのプロセスは「ファンダメンタルズ・バザール」というイベントで紹介されています。「このイベントの観客の4分の1が、それまでの科学に対する考えが変わったと回答しています」と、坪井さんは科学とアートの掛け合わせが人々に与えうる可能性について語りました。
東京科学大学 地球生命研究所(ELSI)特任助教兼広報ディレクターのシィリーナ・ヒーナッティガラ博士は、ELSIで自身が立ち上げた「Science-Art Residency」プログラムを紹介しました。同プログラムは、生命の起源や地球に関する根本的な疑問を科学者とアーティストが共に探索することを目指すものです。「プログラムは、我々科学者のためのものとして作り上げました。数百年前の科学者たちは哲学者でもありました。思考力と想像力に基づいて活動していました。しかし、現代の科学者は、研究資金を獲得するために奮闘し、資金を得ては研究し、その研究が終ればまた次のプロジェクトに移るというサイクルを回しているだけです」とヒーナッティガラ博士は説明します。「そこでアーティストを招聘しました。芸術的なプロセスや思考を学ぶことで、革新的な科学につなげたいと考えたのです。」と述べています。
ソニーコンビュータサイエンス研究所とOISTのコラボレーションによるCybernetic Humanity Studioを立ち上げている笠原俊一博士は、研究を社会に還元し、社会を研究に巻き込むために、アートを実験に取り入れている研究プロジェクトについて話しました。人間とコンピュータの融合から生まれる自己を探求することを掲げている笠原博士の研究では、研究を体験できるシステムをテクノロジーを駆使して構築、それを体験として楽しめるアート展示会を開いています。そこで得た実験結果を基に分析を行ったり、さらなる研究上の問いへ還元したりしています。笠原博士は「アートは、人々を研究サイクルに巻き込む強大な力があります」と述べています。
会場の参加者からは、「アートと科学の関係性や可能性について考えるきっかけとなりました」、「様々なアイデアや活動を学び、まるで、これまでの限界が取り払われたかのように感じました」といった感想が寄せられました。
OIST広報ディビジョンでは、今回のSciArtイベントの成功をきっかけに、今後もこのような機会を積極的に提供していきたいと考えています。
最後に、ヒーナッティガラ博士の締めの言葉を紹介します。「SciArtは、私たちに文化的な影響をもたらしました。これは、当初は予想もしていなかったことです。研究所を訪れる次世代の若者が作品を見て科学者や芸術家に対しての認識が変わったと話してくれました。SciArtが未来を変えるきっかけとなりうるのです。」
本イベントは、第79回国連総会サイエンスサミットの一部として、オンラインで配信も行いました。 こちらからアーカイブ動画をご覧いただけます。
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本イベントの一部は文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」の支援を受けて実施しました。