沖縄の深海で珍しいハゼを発見
2017年、沖縄美ら島財団によって沖縄県恩納村瀬良垣沖の東シナ海で行われた調査中に、意外な魚が発見されました。水深214メートルの海底から無人探査機ROVを使って採集された鮮やかな黄色をしたこの小さな魚は、これまで日本で見つかっていなかったハゼ類の1種(学名Larsonella pumilus)であることが確認されました。本種は、体全体が黄色いことから、沖縄の代表的な黄色い花であり、本種が発見された恩納村の村花でもあるユウナ(オオハマボウ)に因み、ユウナハゼと命名されました。
今回のユウナハゼの発見と、それに続く形態と遺伝子の解析は、沖縄美ら島財団研究センターや沖縄美ら海水族館、沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニットの共同作業で行われ、研究結果がZootaxa誌に掲載されました。
「ハゼ類には非常に多くの種が含まれ、2000種以上が知られていますが、その大部分は河川や湖沼、浅海に生息しています。200 m以深の海域から見つかることは少なく、深海のハゼに関する情報はあまりありません。ハゼ類は一般に小型で隠遁性が高く、深海に住むハゼ類を採集することは容易ではありません。実際に、今回採集されたユウナハゼも海底から引き揚げられたオオクマサカガイの貝殻の中から偶然に見つかったものでした」と、OISTのスタッフサイエンティストであり、本研究の共著者である前田健博士は説明します。
ユウナハゼの系統関係と生息環境
本研究で採集されたユウナハゼは、3か月後に死亡し、前田博士と共同研究者は、遺伝子解析のためエタノールに魚の筋肉の一部を保存し、ミトコンドリアゲノムの解析を行いました。
ミトコンドリアDNAの全塩基配列に基づいて、ユウナハゼと、比較的近縁と考えられるハゼ類、合わせて20種の系統関係を調べた結果、ユウナハゼはイレズミハゼの仲間(イレズミハゼ属)に最も近縁であることが明らかになりました。また、イレズミハゼやベンケイハゼなどを含むイレズミハゼ属が、これまで考えられてきたような単系統の分類群(1つの共通祖先とその子孫全てを含むグループ)ではなく、もう少し複雑な構成であることが示唆されたのです。
ユウナハゼは、これまでインド洋のソマリア、セイシェル、オーストラリア西部、南太平洋のトンガとニューカレドニアおよび太平洋中西部から報告され、いずれも30〜69メートルの深さで採集されていました。今回、恩納村沖の214メートルの深海で見つかったユウナハゼは、本種の7例目の報告であり、これまでの報告と比べてかなり深い場所で見つかりました。
「本種の生息地の中心は、これまで考えられていたよりも深い場所にある可能性があります。ユウナハゼは世界でも数えるほどわずかな報告しかない珍しいハゼ類ですが、本種の発見例が少ないのは、調査が進んでいない深海域が主な生息環境だからかもしれません。本種の形態に関する情報は、アフリカのソマリア沖で採集されたたった1個体の標本に基づくものしかありませんでした。本研究で詳細に調べられ記載された沖縄産標本の形態に関する情報は、今後このグループの分類を検討する上で重要な知見となるでしょう」と前田博士は言います。
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