沖縄の焼き物「やちむん」の秘密に迫る

芸術とそれを裏付ける科学についてOISTで展示しています。

 沖縄の陶工の技法は、幾世代にもわたり親方から弟子へと連綿と受け継がれてきました。沖縄特有の美しい焼き物の作り方を説明する教科書はありません。熟練した陶工は手触りや色彩、炎の形などを手掛かりに作品を生みだします。しかし今日では、現代的技法を取り入れる陶工も少なくありません。さらに、陶土として本来入手可能な地元の粘土資源の減少により、伝統的な技法に関する知識が沖縄から失われつつあります。

 そこで、沖縄科学技術大学院大学(OIST)と読谷村の共同窯である読谷山焼北窯が協力し、沖縄陶芸の伝統技法を科学的に解析・記録しました。OISTの研究者らは最先端機器を駆使し、沖縄の伝統的な焼き物である「やちむん」に使われる様々な材料や技法を研究しました。

 この度、その科学的研究の成果が、200点以上の焼き物とともに、OISTにて展示されています。「北窯×OIST ~ 伝統と科学」は5月18日から7月31日までOISTメインキャンパスにて開催されます。

 「沖縄の伝統と文化の保存へとつながる特別な機会です」と、本プロジェクトを率いたOIST研究者の佐二木健一博士は述べた上で、「地元の粘土資源はやちむんの素地となりますが、土地開発に伴い採土場が舗装されていってしまっています。陶工たちが代わりの粘土資源を導入する際にも最適な配合が実現できるように、陶土の理想的な配合を詳しく理解することが重要です」と説明しました。

 北窯は読谷村やちむんの里にあり、OISTから南に車で20分ほどの距離です。この県内最大の13連窯の登窯では、年に5回火入れが行われます。巨大な登窯に何千もの器が詰められた後、3日3晩窯焚きが行われ、その間北窯の親方たちと弟子たちは交代で寝ずに火の番をします。このとき窯内の最高温度は1400℃近くまで上がります。

 「この貴重な技術を今日も維持するのは大変なことです」と佐二木博士は語ります。「多くの陶工が、伝統的な焼成技術やスタイルから離れていくなか、北窯は忠実に伝統を守っています。」

 北窯には、松田米司さんと双子の弟の松田共司さん、宮城正享さん、與那原正守さんの4名の親方がおり、OISTとの科学的共同研究の機会を快く受け入れてくれました。世界に誇る名工である親方たちでさえ、自分たちが慣れ親しんだ技法が実際にどのような仕組みの上に成り立っているのかは知らなかったのです。

 佐二木博士とOIST研究員アニャ・ダニ氏は、X線回析装置や、蛍光X線分析装置、走査型電子顕微鏡などの最先端機器を用い、陶土を混ぜて作る標準土や釉薬の構成成分を分析しました。また、焼成の際に温度測定用のチップ(陶片)を窯全体に設置したことで、陶工たちは窯内の温度勾配を正確に把握することができました。OISTの研究者たちはこのような測定方法を駆使することで、望み通りの器を生みだすための熱や酸素、釉薬の化学組成、陶土の配合の組み合わせについて正確に記録することができました。

 歴史上、時間の流れとともに忘れ去られてしまった技法もありますが、今回やちむん作りの情報を詳細に記録したことで、今ある伝統的技法を後世に確実に残すことができるでしょう。

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