キラー微生物の攻撃から生き延びる
食べ物を手に入れ、捕食を避ける能力は、ほとんどの生命体にとって自分たちの遺伝子を次の世代に伝えることができるか、あるいはそれを試み続けながらも死ぬということを意味します。しかし、ある微生物種にとっては、特有のウイルスがその法則を塗り替えてしまいます。どういうことかと言うと、この珍しいウイルスがいくつかの微生物をそれぞれキラー微生物に変えてしまうのです。つまり、これらのキラー微生物が、食料などの資源を保つために競合している微生物と接触すると、その微生物を直ちに殺してしまうのです。
多くの方は、すべての非キラー微生物や弱い微生物は死んでしまうため、最後はキラー微生物だけが生き残ると想像するでしょう。しかし、そうではないのです。自然実験と試験管内実験のいずれにおいても、不思議なことに弱い微生物は生き残ることが分かっています。この疑問は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の数理生物学ユニットを率いる数学者ロバート・シンクレア准教授の興味をそそりました。
シンクレア准教授が初めてキラー微生物のことを聞いたのは、生態・進化学ユニットのアレキサンダー・ミケェエブ准教授からでした。シンクレア准教授は、研究者間の交流を促すOISTのおかげだと話しています。「普通の大学にいたら、キラー微生物のことを知ることはなかったでしょう」と語っています。
微生物研究課題として、パン酵母をよく使用するミケェエブ准教授は、具体的にどのようにして特有のウイルスがそれぞれの酵母細胞をキラー微生物に変えるのかという、今注目を集めている新たな研究に取り組んできました。ミケェエブ准教授は「より広い視野でその疑問に目を向けてください」と問いかけた上で、「『生き延びるために違った戦略があったら、どうなるか?』ということです。我々は微生物界の大部分についてまだわかっていません。そこは我々の世界とは違った法則に支配されているのです」と説明しました。
これまで研究者たちは、より多くの子孫を残すことが弱い微生物の生存への鍵であることを示してきました。もし弱い微生物がより高い繁殖率を有しているなら、あるいは、キラー微生物よりもはるかに多くの子孫を生殖するなら、キラー微生物は弱い微生物を消滅させることはできないでしょう。しかし、実際にどれほど多くの子孫が弱い微生物に必要なのか、その数を正確に示すことができる人はいませんでした。
シンクレア准教授は、数学者としてこの問題を違った角度から見ました。それは、無限大の観点からです。「無限大は多く存在し、それらすべてはそれぞれかなり異なっています」と、同准教授は述べています。今回の場合、彼は繁殖率のごく小さな変化だけが弱い微生物の存続と消滅に違いを生むのではないかと考えました。そして、繁殖率のごくわずかな違いを取り込んだ何百ものシナリオに代わって、シンクレア准教授は証明することで解明を目指しました。
シンクレア准教授は、まず記号論理学の成長モデルである人口増加を示す標準理論とやや似ている方程式を書きました。そして、弱い微生物が存続のためにあとどれほど多くの子孫を残す必要があるかを確定するための方程式を解析しました。そして、同教授は弱い微生物とキラー微生物の間で繁殖率を測定する必要はないということを発見しました。弱い株はより高い繁殖率を保っている限り、キラー微生物と共存することができることがわかったのです。本成果は、2014年7月14日付けの Frontiers in Microbiology に掲載されました。
このキラー微生物についての難題解決に加えて、シンクレア准教授の分析は、限りなく小さなものについての考察であるため、珍しいものです。この見解は、主として純粋数学に限られています。なぜなら無限大をモデル化することは困難であるためです。「無限大に近づくことは困難を伴います」とシンクレア准教授は述べ、「我々が予想もしないことが起こることはよくあるのです」と説明しました。この限りなく小さなものを現実の世界で応用することは、純粋数学と応用数学の溝を埋める懸け橋となります。「これらの主題が途方もなくかけ離れているというわけではありません」とシンクレア准教授は解説しています。「私は、純粋数学と応用数学のこの人為的な境界線を取り除きたいのです。」
ラッシュ ポンツィー