進化の謎をひもとく

OIST生態・進化学ユニットが古くて脆い博物館の標本からDNAを抽出しシーケンシングを行う方法を開発しました。

 OIST生態・進化学ユニットの研究テーマは色々ありますが、次世代DNAシーケンシングなどの新しいテクノロジーを利用し、進化に対する理解を深めるという共通点があります。しかし、進化を研究する上で最適な題材の中には、きわめて古いもの、おそらく数十年、あるいは数世紀を経た博物館の標本が含まれます。このような標本の分子データ、すなわちDNA分子に保存されている遺伝子情報を得るには、既存の手法では標本が破壊される可能性があり、また断片化したDNAから有用な情報を得ることができないか、できたとしてもコストがきわめて高くつきます。それでも「必要は発明の母」とはよく言ったもので、同ユニットを率いるアレキサンダー・ミケェエブ准教授は、田 敏英(マン・イー・ティン)技術員およびエヴァン・エコノモ准教授と共に、古くて脆い博物館の標本に合わせてDNA抽出とシーケンスの技術を最適化することにしました。このたびPLOS ONEに掲載された論文では、数十年前の昆虫の標本に対してこの方法を使用した結果について報告しています。

 博物館には数百年、あるいは数千年前の動植物の標本が保存されていますが、DNA解読が行われた標本はほとんどありません。DNAとは遺伝のもととなる生命の設計図のことです。これまでも、科学者はきわめて有用な情報を博物館の標本から集めてきました。例として、インフルエンザ、ハンタウイルス病、西ナイルウイルス病などの疾患に関する歴史が明らかにされたことが挙げられます。博物館の標本から、これらのウイルスがヒトに持ち込まれた経緯、拡散の仕方や発生源を調べることができました。こうしたデータが助けとなり、科学者らは感染症の封じ込めや治療を行っています。OISTの研究者たちは、有用と思われる膨大な博物館の標本について詳しく知るうちに、この宝の山を活用したいと思うようになりました。特に、進化について研究するために昆虫の標本のDNA解読を行うことに関心を抱くようになりました。

 研究者 たちは、多数の、かつ脆いサンプルを使用することから、作業が単純でコスト効率が高いことを条件としました。このような特徴により、簡単に自動化できる技術、つまりロボットの使用を可能とし、一度に数百の標本からDNAサンプルを抽出できる技術の開発につながりました。DNA抽出の次の段階はシーケンシングです。研究者たちはOISTで使用できる次世代型シーケンシング技術を使用しました。これはきわめて重要な点で、抽出されたDNAは極端に断片化されていることが多いため、OISTに次世代型シーケンシング設備がなければ、DNA断片が短すぎて有用な情報を得ることはできなかったといえます。

 最後に、研究者たちはこの新しい方法の有効性を、2通りの実証実験で示しました。まず、ゲノム解読済みのアリの標本を用い、新しい方法と既存方法を直接比較しました。さらに、種分化のスピードが非常に速い生物として典型的な進化メカニズムを経た、ハワイ産ショウジョウバエを解析対象に選び、新しい技術で得られたデータを、過去の大規模な進化研究で得られたハワイ産ショウジョウバエの系統発生学的データ(種の系統樹)と比較したのです。OISTの研究者たちが開発した方法は、使用した標本すべてにおいて成功を収め、標本を大きく損傷させずに有用な情報を得ることができ、しかも低コストで効率的な方法であることが実証されました。

 今回確立されたこれらのDNA抽出とシーケンシングの技術について、ミケェエブ准教授は、「現在使用できるどの技術と比べても、はるかに単純で簡単に実施できます」と述べた上で、「私たちの研究室ではすでに主要な技術となっています」と付け加えました。研究者たちは次の段階としてヒトの進化を研究するために、この技術を考古学的標本に使用したいと考えています。標本と研究室のスペースさえ十分にあれば、OISTの研究者たちが我々ヒトの進化に隠れた手掛かりを発見する可能性が大いにあります。

PLOS ONEに掲載された論文を読むには、以下にアクセスしてください。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0096793

(エステス キャスリーン)

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