海洋科学の将来展望
去る10月29日、海外の研究機関から名だたる6名の専門家が沖縄科学技術大学院大学(OIST)に集合し、海洋細胞生物学のミクロの世界から、外洋や沿岸地域における海流変動まで幅広く発表をし、話し合いが行われました。会合は、それぞれの知見について学ぶとともに、海洋科学を共通の専門とする研究者たちにとって、お互いの経験を共有する良い機会でもありました。OISTのジョージ・イワマ プロボーストは、「今回皆さんをOISTにお招きした目的は、海洋科学の将来について意見を持ち寄り話し合っていただくためです。このような情報交換を通じて、現在及び将来の課題と可能性について考えを共有する場としたい」と語っています。
会合は、イワマ プロボーストによる発表で始まりました。同博士は恩納村に建設予定のOIST臨海実験施設(仮称)について、設計や建設工程について発表するとともに、沖縄近海が生物多様性に富んでいることについて言及しました。OISTにとっては、深海トラフや黒潮が沖縄近海を北上することが、このようなセンターを整備するための格好の立地条件となります。
出席した専門家による発表は、長期的かつ大規模で学際的な生態系研究のためのプログラム(LTER)や、海洋科学に特化した研究機関の歴史、沿岸海洋研究、そして産業界との関係など、幅広い内容でした。米国カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校のディヴィッド・シーゲル教授は、実際LTERを遂行するにあたり、OISTに必要なものは何かを問題提起してくれました。
OISTが傾注すべき助言や質問の他、会合では海洋科学研究機関の歴史的発展および反省点についても意見が述べられました。カナダのブリティッシュコロンビア大学のディヴィッド・ランドル教授は、1872年に設立されたイタリアのナポリ臨界実験所を引き合いに、海岸に整備される海洋研究施設のルーツについて語りました。そして、同研究所のユニークな設計と運営が、おそらく海洋科学において世界初と思われる国際的な共同研究につながったと強調しました。
会合出席者はそれぞれが異なる専門をもち、出身も異なりますが、分野の垣根を越えた共同研究が議題の中心となったのは言うまでもありません。米国スタンフォード大学のスティーブン・モニスミス教授は、「伝統的な海洋科学研究機関はともすれば内向きになりかねない」と指摘しました。
会合終盤には、出席者全員が海洋科学研究の現状や将来の展望についてそれぞれ意見を述べるとともに、このことがOISTにとって何を意味するのかについて話し合いました。この中で同一見解として挙げられたのが、研究のやり方を変えていかなければならないということで、OISTが推奨する学際的なアプローチが支持されました。また、OISTの教育研究への取り組みが、今後の科学の発展に寄与し、将来の共同研究の在り方を方向づけることになるかも知れないとの期待の声も寄せられました。最後にOISTのジョナサン・ドーファン学長からは、「とても良い会合でした。世界の海洋研究を牽引する専門家がOISTに一堂に会しただけでなく、私たちにとってもこの重要な分野にかける意欲や将来計画について立ち返って考える機会となりました」との言葉が述べられました。