中国アリ収集の旅
数週間前、OISTの生物多様性・複雑性ユニットを率いるエコノモ准教授が進化生態学において有名な仮説を、アリを研究材料として実証したことで賞を受賞しました。しかし、「そもそもこのアリは どう手に入れるのだろう?」と疑問に思った方はいませんか?
研究を進めるためには、まずアリを現場から採取することから始まります。東ヒマラヤ山脈のふもとには、シーサンパンナ州という、中国で最も生物多様性が豊かな地域があります。しかし今、シーサンパンナ州ではゴムの木の大規模農園を開発するために原生林が伐採されており、原生林に住む生物の生息地が急激に減少しているため、生物多様性が失われつつあります。このような人為的攪乱が生物多様性及び生物種の構成にどう影響するか調べるべく、エコノモ教授のユニットのメンバーたちはシーサンパンナ熱帯植物園に2週間に及ぶアリ収集の旅に出向きました。
今回収集したアリは、この研究に加え別のプロジェクトにも役立ちます。エコノモ教授のユニットは現在、アリの最大の属であり、計1000種以上が属するPheidole属の系統樹を完成させることに取り組んでいます。この一つのアリの属だけで、全哺乳類の五分の一に匹敵するほどの種の数が属しています。
この旅を先導したベノア・ゲナー研究員は、「今はPheidole属の系統樹に大きな空白がある。シーサンパンナではその空白を埋めるために必要なアリ種を採取できるから、理想的なロケーションだった。」と語っていました。ゲナー博士はアリの専門家であり、アリの種及び分布に関する巨大なデータベースを考案するなど行っています。ゲナー博士に加え、大学院生の劉聰さんとリサーチインターンのベンジャミン・ブランカードさんもこの旅に同行しました。劉さんは修士号取得中にシーサンパンナで研究を行った経験があったため、今回シーサンパンナを探索するにあたって大きな強みとなりました。
今回は、幾つかの方法を駆使して多種のアリを採取しました。主に使われたウィンクラー法では、集めた落ち葉をふるいにかけ、特別にデザインされた袋に落ち葉を入れ、更に袋をつるして落ち葉を乾かしていきます。乾燥した落ち葉はアリにとって悪条件であるため、より湿った環境を求めてアリや他の無脊椎動物は下へ下へと移動して行きます。袋の底ではエタノールが入ったコップが待ち構え、アリを今後の研究に役立てるために保存します。しかし、シーサンパンナ周辺では落ち葉を乾かすのに適した施設がなく採取が難航しました。そこで、メンバーたちは周辺から竹を集めて適した長さに切り、竹からロープを渡して袋をつるすなど工夫しました。ブランカードさんは、「ベノアは何回も他のところでウィンクラー法を使ったことがあるけれど、今回が今までで一番苦労したと言っていた。大都会のニューヨーク市のマンハッタンで採取した時よりもひどかったそうだ!」と語っていました。
この他にも、素手でアリをつかんだり、ピンセットでつまんだりなど単純な方法でもアリを採取しました。中でも驚きなのは昆虫学者の間で「プーター」と呼ばれる吸入器のようなものを使った手法です。プーターを使う際は、ストローのような形状をした先端を吸い、チューブを通してアリを吸い取ります。プーターは、何千もの固体が走り回っているときにコロニーのサンプルを得るときに使うと有効です。
単に集めるだけでは収集は終わりません。採取したものを仕分ける作業も手間がかかります。ウィンクラー袋一つの中からは1000個以上の個体、及び50種ものアリが採取されることもあります。その上、アリの他にもクモなどの節足動物も混入しているので、全て手作業でひとつずつ仕分ける必要があります。今回の旅では、80個以上のウィンクラー袋が集められました。現在エコノモ教授のユニットは、シーサンパンナで集めた標本を種ごとに仕分けしています。過去にはシーサンパンナ熱帯植物園から240種ものアリが見つかったことがあります。現段階ではこの旅で何種採集できたか不明ですが、シーサンパンナで以前見つかったことのなかった種も確認しました。今後どのような種が確認されていくか、期待がふくらむところです。
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