美ら海プラザにサンゴの分身
新たな発見は、さらなる新しい発見への扉を開く可能性を秘めています。ここ沖縄の海洋博公園「美ら海プラザ」の扉の向こう側には、OISTのマリンゲノミックスユニットが世界で初めて全ゲノム解読を行った、実際のサンゴが生きた状態で展示されています。
沖縄美ら海水族館に隣接する美ら海プラザで披露されているコユビミドリイシ(Acropora digitifera)の全ゲノムは、初夏の一斉産卵時に集めたサンゴの精子から抽出されたDNAより解読されました。サンゴはたった一つの卵から、大きなサンゴ群体へと成長します。サンゴの色を作っているのがサンゴと共生する褐虫藻で、彼らはサンゴに栄養を与えます。研究が進んだ段階で、OISTの新里宙也研究員は、美ら海プラザのサンゴ礁展示コーナーに提供するためにゲノム解析が行われたサンゴの一部を5cmほど切り離しました。このサンゴ片はすくすくと成長し、一年後の今は15cmほどになっています。
バラの挿し木を土に植えると遺伝的に同じバラができるように、このサンゴも増えていきます。同じサンゴ礁に隣り合わせる同種のサンゴでも、そのゲノム情報は微妙に異なります。海洋博公園を運営する沖縄美ら島財団は、白化の危機に瀕するサンゴの研究を推進する上での、このサンゴの重要性を認識し、OISTの発見を広く紹介する取り組みを後押ししてくださりました。美ら海プラザを訪問すればどなたでも無料で、一般向けに展示されている研究内容を見ることができます。
「沖縄のサンゴ礁は世界有数の美しいサンゴ礁です。」と新里研究員は語った上で、「サンゴ礁の重要性と我々が行っている研究の意義を沖縄の人々に知って頂くことが非常に重要だと考えています。」と話します。
サンゴのゲノム情報を解読したことで、OISTの研究者にとって驚くべき発見がいくつかありました。まず、近縁の種から分岐したサンゴの起源が、これまで考えられて時期より2億5千万年ほどさかのぼることが分かりました。またミドリイシサンゴは重要なアミノ酸を持たず、その生産を共生する褐虫藻に頼っていることが分かりました。このように褐虫藻に強く依存しているため、ミドリイシは環境ストレスの影響を受けやすいということが考えられます。更に、強い日差しから身を守る役割を果たす物質を作り出すのは褐虫藻ではなく、サンゴ自身ではないかということも分かりました。
新里研究員は現在、サンゴ礁保全再生プロジェクトで沖縄県と連携し、沖縄諸島にまたがるサンゴの遺伝的つながりを研究しています。新里研究員は、沖縄のサンゴがどこからやってきたのかは分かっておらず、そのためDNAの情報を用いることで、沖縄周辺海域でサンゴがどのように広がっているのかを明らかにすることができ、将来的には北半球と南半球でどのように分布しているかを解明したいと語っています。
現在取り組んでいる研究プロジェクトにとっても、水族館での展示は追加の保険にもなっていると新里研究員は言います。ゲノム解読に使用されたサンゴは現在、琉球大学熱帯生物圏研究センターの瀬底研究施設に保管されていますが、万一の事態が生じても、貴重な研究の少なくとも一部が、サンゴが生まれた海に隣接する施設で静かに成長しているというわけです。
世界に一つしか存在しない、ゲノムが解読されたサンゴを実際に見てみたいという方は、ぜひ海洋博公園を訪れてください。展示が行われている美ら海プラザは入場無料です。
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