OIST研究者が沖縄の川で新種の魚を発見
沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニットの前田健博士は、沖縄本島および西表島の川からハゼ科の新種を発見しました。この新種は、ヒスイボウズハゼ(Stiphodon alcedo)と名付けられ、前田博士らによってフランスの学術誌Cybiumに論文として発表されました。
前田博士がこの魚に出会ったのは、2006年、沖縄本島の川でスノーケリングにより他のハゼ科魚類を観察していた時のことでした。ハゼ科には非常に多くの種が含まれ、その分類には現在も多くの課題が残されています。前田博士は、当初、この見慣れないハゼをこれまで日本では見つかっていないフィリピン原産の既知種だろうと考えていました。しかし、この魚の正体を明らかにするためシンガポールの博物館を訪ね、そこに保管されていたフィリピン産のハゼの標本を調べた結果、彼は沖縄で発見した魚がそれとは異なる特徴を持つことに気づき、この魚は新種になるだろうと確信しました。そこで、前田博士と共著者らは、この魚と近縁種の形態と遺伝子情報を慎重に比較分析し、本種が、体色、ひれの形状および歯の数などに特徴を持つ新種であることを確認しました。オスの頭部が繁殖期にメタリックな青緑色に輝くことから、前田博士は新種のハゼにカワセミを意味するラテン語を用いてStiphodon alcedoという学名を付け、またヒスイ(翡翠)ボウズハゼという和名を付けました。
新種、ヒスイボウズハゼは今のところ琉球列島の沖縄本島と西表島以外では見つかっていませんが、前田博士によれば、この個体群が琉球列島に生息し始めたのは比較的最近のことである可能性が高いそうです。ヒスイボウズハゼの成魚は川に住み、そこで産卵しますが、孵化した稚魚はすぐに海に出て、しばらくの間そこで成長します。遊泳力の弱い稚魚は海流によって運ばれやすく、特に小さいサイズで孵化するボウズハゼの仲間は遠く離れた島まで分散することがあると考えられています。ヒスイボウズハゼがこれまで発見されなかった理由として、前田博士らは、この魚の稚魚が最近になって黒潮によってフィリピンから琉球列島に運ばれてきたからではないかと考えています。「私たちは、この魚がフィリピンから来たと推測していますが、そこではこの魚はこれまで報告されていません。フィリピンをはじめとして東南アジアには魚類相が解明されていない地域が多いため、現在のところ本種のルーツを特定するのは困難です。同じように海流に運ばれている魚は他にもあるはずですが、彼らの出身地の魚類相を明らかにすることによってそれらの稚魚が分散するメカニズムを解明できるかもしれません。」と、前田博士は説明しています。
【発表論文詳細】
- 発表先および発表日:
「Cybium(シビウム)35(4)」(2011年12月31日)
※出版社の都合により、本号は出版が遅れ、2012年5月に発行されました。
- 論文タイトル:
A new species of amphidromous goby, Stiphodon alcedo, from the Ryukyu Archipelago
(琉球列島産の両側回遊性ハゼの新種、Stiphodon alcedo) - 著者:
Ken Maeda1, 2, Takahiko Mukai3, Katsunori Tachihara2
1 沖縄科学技術大学院大学
2 琉球大学
3 岐阜大学
繁殖期のヒスイボウズハゼのオス(左)とメス(右)。宝石のように輝くオスに対し、メスは落ち着いた色あいである。最大で全長6cm程度。前田健博士撮影。