海洋ネットワーク構築の達人
海洋生態物理学ユニットの御手洗哲司准教授は、世界中の名だたる海洋研究機関と連携を進める、人脈作りの達人と言えます。同准教授はOISTに2009年9月に着任以来、ウッズホール海洋研究所(WHOI)、琉球大学、海上保安庁、沖縄県水産海洋研究センター、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所などの研究グループと連携を図ってきました。これでも足りないと思われる方のために付け加えると、他にも進行中の連携プロジェクトの計画があります。御手洗准教授が貫くこうしたグローバルなパートナーシップの構築は、OISTの重要な基本理念のひとつである、世界の科学者や研究機関との国際的な連携による研究・教育の機会の拡充とも一致しています。
御手洗准教授は、複数の研究プロジェクトを同時進行で進めていますが、共通の研究テーマとしてあるのが、海流による沖縄周辺海域のサンゴ礁及び熱水噴出孔に生息する海洋生物への影響の解明です。同准教授は、学際的な研究を目指すどの研究者も行うように、複数のアプローチによってこの研究テーマに取り組んでおり、例えば、フロートと呼ばれる海洋観測装置の設置、集団遺伝学的調査、コンピュータモデリング、海面に照射した電波の散乱の解析、リアルタイムでの海洋環境変化のモニタリングなど、両手で数えきれないほどの手法が使用されています。このような多様な手法が活用できるのは、これまで御手洗准教授が構築してきた研究協力の直接的な成果と言えます。プロジェクトに参画している研究グループが個別に実験を行い、それらを結集することで、熱水噴出孔及びサンゴ礁の生物群集がどのように、そしてなぜ増殖または減少するのかを複数の視点から解明しています。
例えば、WHOIの研究者は、御手洗准教授が取り組んでいる沖縄周辺海域のサンゴ礁や熱噴水孔付近に生息する海洋生物の幼生の海流輸送に関する研究プロジェクトの推進に協力し、一方、同准教授はWHOIの研究者に観測データを提供します。WHOIとの共同研究において大きな位置を占めているのが、WHOIの技術者が開発した機器の設置や維持管理で、御手洗准教授はそれらの機器を、沖縄周辺の海水温度や塩分濃度、サンゴ礁の付近で発生する波の進行方向などの変動をリアルタイムで観測するために使用します。この長期プロジェクトにより、現在沖縄で進行しているサンゴの白化現象の原因について、理解を深めることができます。御手洗准教授にとって、熱水噴出孔の研究において世界のリーダー的存在であるWHOIの科学者と共に研究ができることは大きな喜びでありこれらの研究活動は、日本政府及びキャノン財団からの多大な研究助成金なくしては実現しませんでした。
沖縄県水産海洋研究センターの海洋学研究者との連携もまた、御手洗准教授に確実な成果をもたらしています。通常、研究者が沖合に出て海洋サンプルを収集できるのはせいぜい年に一回程度ですが、同准教授の研究チームは、観測データを提供するかわりに、同センターの漁業調査船に同乗させてもらうことで年に10回まで観測をおこなうことができます。御手洗准教授の研究計画が提案された後、JAMSTECからも、同機構が所有する観測船に御手洗准教授と研究チームが招かれ、共同で現地調査が行われました。
こうした連携の恩恵を最も受けるのは、沖縄及び世界の海域の熱水噴出孔に生息する生物とサンゴ礁だといえます。海流調査によってこのような特有の環境下に住む生物の海流輸送についての理解を深めることについて、御手洗准教授は「公的機関が海洋保護区の設定や評価を行うことができます。」と述べた上で、「熱水噴出孔の研究が、生命の起源を解明するヒントを与えてくれるのです」と語ってくれました。
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