想像以上のサンゴ群集の複雑さが明らかに
サンゴ礁はデリケートな生態系であり、気候変動や人為的な活動によって危機に瀕しています。水中環境の再生は、通常健康なサンゴ礁から傷ついたサンゴ礁に、サンゴを移植することによって行われます。しかしこのやり方は問題となる可能性があります。というのも、この方法ではサンゴ礁におけるそれぞれの地域的な特徴を見過ごし、サンゴの遺伝的な多様性を損なう可能性があるからです。
サンゴ生態系に配慮した再生の第一歩としては、それぞれのサンゴ群集の構造や遺伝的多様性を細かく理解する必要があります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のマリンゲノミックスユニットの座安佑奈博士と新里宙也博士は、南西諸島の15地点における298ものサンゴ群体を調査しました。本論文ではウスエダミドリイシ(学名Acropora tenuis)という広範に見られるサンゴのDNAを比較調査しました。本研究プロジェクトは、国立研究開発法人水産研究・教育機構、琉球大学、OISTの海洋生態物理学ユニット及びマリンゲノミックスユニットという複数の機関によるもので、Ecology and Evolution誌に掲載されています。
座安博士は「異なる地域間での遺伝的関連性を調べたいと考えました」と、説明しています。そこで研究者たちは、親子鑑定でよく使われる技術を使用し、サンゴの異なる群体ごとに13のDNAの部位を比較しました。比較に使用されたゲノム上の数塩基単位の繰り返し配列のことを『マイクロサテライト』と呼びます。「研究の結果、地理的な境界は存在しないにもかかわらず、南西諸島には少なくとも二つの遺伝的由来の異なる集団がウスエダミドリイシに存在することがわかりました」と、座安博士は述べました。
特に興味深いのは、ミドリイシサンゴは放卵放精することにより、南西諸島全体に簡単に拡散することができるという通説に疑問が生じた点です。この仮説は、黒潮がサンゴの一生のサイクルにおいて重要な役割を果たすことを基本としていました。特に、サンゴの幼生期に定着する場所まで泳ぐ際に黒潮による強い影響を受けると考えられてきました。
座安博士と共同研究者らは、サンゴの複雑な集団構造を説明するには、他の複数の要素が関連していると考えています。特に、今日までサンゴの研究で省みられなかった、黒潮とは反対方向に流れる地域的な海流に注目しています。この新たな仮説は、黒潮が南から北に流れるのに対し、ウスエダミドリイシの個体群の一部は北から南に拡大してきた兆候を見せることからも、説明がつきます。沖縄本島の南部は、ふたつの異なるサンゴ集団の交わる場所である可能性もあります。
「二つの集団が明らかに検出されたものの、さらに多くの集団が存在する可能性もあります。全ゲノム解析により生体のDNAの全容を調べることが可能になりましたが、サンゴの地域的な絶滅や回復など、歴史的な出来事を含めたより詳細な集団間の関係性が将来わかるようになるかもしれません」と、座安博士は述べます。
本研究が示しているサンゴ礁の特性は注目に値するものです。それぞれのサンゴ群集が独自の特性をそれぞれの環境に応じて持っているとすれば、サンゴ礁を保全するには、それぞれの地域で、その地域のサンゴ群集と環境を保全しなければならないからです。
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