流体力学で挑むエネルギー問題
沖縄科学技術大学院大学(OIST)とミラノ工科大学が行った共同研究で、流体をダクトに汲み上げるときにポンプを間欠的に運転すると、輸送コストが大幅に削減できることを明らかにしました。
実証研究では、ポンプの運転と停止を周期的に繰り返すと、流体が乱流と層流の状態を行き来し続けることが、数値シミュレーションにより示されました。この方法により、エネルギーコストが最大22%削減されましたが、研究グループは、この数値はさらに改善できる余地があると述べています。
「層流」とは、水道の蛇口をゆっくりと開けるときにみられるような、滑らかな流線形を描く、エネルギー効率の高い流れです。一方、「乱流」は、水道の蛇口を勢いよく開けたときにみられるような無秩序な流れで、エネルギーを浪費します。
本研究論文の筆頭著者であり、OIST複雑流体・流動ユニットの博士課程一年生であるジュリオ・フォッジ・ロタさんは、次のように説明しています。「層流にインクを注入すると、インクが管の中を移動する線がはっきりと見えますが、乱流の場合は、それぞれの流体粒子が予測不可能な経路をとるため、インクが拡散します。このような小規模の無秩序な運動によって、多くのエネルギーが失われます。流体輸送では層流が理想的ですが、粘性流体は高速で大規模な移動をすると、自然に乱流状態へと移行します。」
乱流を抑えることができれば、輸送管を通した流体移動にかかるコストが削減でき、経済、環境の両面に多くのメリットをもたらすことが期待できます。燃料にかかる最終コストの大部分は輸送コストが占めているため、先進国では液体水素への移行が安価になる可能性があります。また、まだグリーンエネルギーへの移行が難しい発展途上国では、森林破壊を助長して化石燃料よりも有害な汚染物質を多く発生させる薪に替わって、石油や天然ガスをより安価なエネルギー源として利用できるようになるかもしれません。
本研究では、強力なスーパーコンピュータで標準的な乱流シミュレーションを行えるコードを作成しました。
研究グループは、ポンプの運転時間の長さ、勢い(流体の加速度)、運転・停止サイクル全体の長さを変えて、さまざまな条件を試しました。
その結果、流体を長い間層流に近い状態に保つためには、短時間に勢いよく汲み上げて一気に加速させた後、長時間ポンプを停止して流体を減速させるという長いサイクルを経る方法が最適であることが明らかになりました。
研究グループは、本研究の次段階として、乱流状態と層流状態の間を繰り返し行き来する物理現象をさらに解明したいと考えています。
OIST複雑流体・流動ユニットを率いるマルコ・エドアルド・ロスティ准教授は、次のように述べています。「間欠的に汲み上げることによって、流体がなぜそのような振る舞いをするのかを完全に解明することができれば、エネルギーを最大限に節約しながら流体を汲み上げる最適な方法を発見できる日が、大きく近づくでしょう。」
本研究は、科学誌Scientific Reportsに発表されました。
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