OISTのスバンテ・ペーボ教授が日本国際賞を受賞
2022年4月14日、OISTのヒト進化ゲノミクスユニットを率いるスバンテ・ペーボ教授(アジャンクト)が「生命科学」分野において日本国際賞を受賞しました。
日本国際賞は、1980年代に日本政府が設立した国際的権威のある賞で、世界規模での科学技術の発展に寄与することを目的としたものです。
ペーボ博士は、古代人ゲノム解読による古人類学への先駆的貢献が評価され、2020年の受賞者として認定されました。
授賞式は新型コロナウイルス感染症の流行により延期されていましたが、天皇皇后両陛下のご臨席のもと、東京都の帝国ホテルにて開催され、2020年、2021年、2022年の受賞者に対し国際科学技術財団会長の矢崎義雄氏より賞状と賞牌が授与されました。
受賞後のスピーチの中で、ペーボ博士は次のように述べています。「この研究分野は人類が地球上をどのように移動し、どのように混ざり合ったのか、という問いについて新しい視点を与えてくれました。また、この分野はこれまで壮大な冒険を経て発展してきました。そしてその冒険はこれからも続きます。」
さらに、ペーボ教授は、「この研究分野、そしてこの研究分野において貢献したすべての方々に敬意を表し、この栄誉を謹んでお受けします」とつけ加えています。
授賞式では、天皇陛下もおことばをお寄せ下さいました。「日本国際賞の授賞式に関係者の皆さんと共に出席できることをうれしく思います。この度の授賞式に当たり、各博士がそれぞれ受賞されたことを心からお祝いいたします。」
陛下は、ペーボ博士の研究について次のようなおことばを述べられました。「ペーボ博士は、古代人の骨からDNAの断片を抽出して解析する遺伝学的手法を取り入れ,世界で初めてネアンデルタール人のゲノム解読に成功されました。以来この方法で現生人類の進化の核心に迫る成果を挙げ,現生人類の誕生と進化の解明に新たな光を当てられました。」と述べています。
式典の最後には、ペーボ博士は天皇陛下に内謁し、岸田文雄内閣総理大臣に自身の研究やOISTについて話す機会を得ました。
ペーボ博士はその後、2020年5月に教授に着任して以来、初めてOISTのキャンパスを訪れました。OISTの教員による学内向けセミナーにおいて自身の研究内容や経歴について講演しました。
多くの科学者と同様に、ペーボ博士も科学的発見に辿り着くまでに紆余曲折を経ています。博士は、セミナーの後のインタビューに応じ、次のように振り返りました。「子どものころは、考古学者やエジプト学者になりたいと思っていて、大学ではその勉強を始めたのです。
その後、幼い頃の憧れを諦めきれなかったペーボ博士は、趣味の一環で博物館にあるエジプトのミイラからDNAを抽出することを試みました。そして一定の成果を収めた後、カリフォルニア大学バークレー校の博士研究員となり、人類の進化や古代人のDNAシーケンシングの専門家であるアラン・ウィルソン教授の下で現在のキャリアの道を歩み始めました。
ペーボ博士は、その後数年間、ネアンデルタール人のDNA配列を初めて解読したり、シベリアの洞窟で発見された古代人の指の骨のDNAから、それまで知られていなかった絶滅した人類の「デニソワ人」を特定したりするなど、古遺伝学の分野において重要な発見をいくつも行いました。さらに、ネアンデルタール人とデニソワ人の遺伝子が、現代人の特定の集団にも存在していることも発見しました。このDNAは、人類の直接の祖先と、今は絶滅したこれらの人類が初めて出会った時に交配して受け継がれたものです。この発見によって人類史が書き換えられ、一般の関心を集めました。
ペーボ博士は、次のように述べています。「人類の起源や過去について、そして人類がどのようにして世界中に広がるほど繁栄したのかということについて、多くの人が関心を抱いています。」
現在ペーボ博士がOISTで行っている研究は、古代人のゲノムの解読から離れ、ネアンデルタール人やデニソワ人から遺産として人類に受け継がれたDNAや、現代人にしか見られないDNAの機能を解明することに移っています。
「今私が本当に叶えたい夢は、人類を特別な存在にしているものの側面を生物学的な観点から解明することです。これが明らかになれば、本当に素晴らしいことだと思います。」
###
ヘッダー画像は国際科学技術財団の動画より抽出。
専門分野
研究ユニット
広報・取材に関するお問い合わせ
報道関係者専用問い合わせフォーム