新種のイカが仲間入り!
「頭足類は地球上で最初の知的な生き物だったのです。」
分子遺伝学者であり、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の創設者の一人であるシドニー・ブレナー博士のこの言葉は、コウイカやタコ、ツツイカなど頭足類に対する科学的関心の急速な高まりを示しています。頭足類の発達した神経系と複雑な行動が注目されていますが、その多くは未だ謎に包まれています。
この度、OIST分子遺伝学ユニットがオーストラリアの研究者と共同で、沖縄の海に生息するダンゴイカ類の新種を特定し、今年4月に亡くなられたシドニー・ブレナー博士にちなんでEuprymna brenneri(ブレナーミミイカ)と名付けました。Communications Biology誌に掲載されたこの発見は、沖縄県周辺海域の豊かな生物多様性を示すとともに、今後のダンゴイカの遺伝子や行動、発生を解明する足がかりとなることが期待されます。
筆頭著者であるグスタボ・サンチェス博士(現 広島大学大学院統合生命科学研究科助教)は、本研究について次のように話しています。「これらの生物の複雑な脳の働きを理解することを目指して研究しています。また、沖縄の海にこれほど多様な種が生息している理由も探りたいと考えています。」
新種の発見と同定
ダンゴイカはツツイカ類に属するものの、「団子イカ」というニックネームの由来となる丸い体を持ち、系統的にコウイカ類に近いといった特徴をもつことがわかっています。ダンゴイカは研究室内で飼育が可能で、頭足類の発生や、遺伝子、行動を研究するためのモデル生物として利用されます。連合学習といった高度な行動に加え、遺伝的な個性や適応度の特性も観察されています。
本研究では、研究者たちが琉球諸島の浅瀬でダンゴイカの探索を行った結果、3タイプの卵塊と2タイプの成体が見つかりました。
10種42個体について、DNAやRNA発現、もしくはトランスクリプトームを解析することで、成体と卵塊のタイプの対応を明らかにするとともに、これまで異なる属に誤って分類されていた1タイプをEuprymna parva(ヒメダンゴイカ)として再同定しました。1タイプの卵塊に対応する成体は見つかりませんでしたが、DNA解析から、Euprymna pardalota(ヒョウガラミミイカ)というオーストラリアや東ティモールに生息する種の遠縁である可能性が明らかになりました。
最後に琉球タイプのダンゴイカが残りました。研究者たちはトランスクリプトーム解析に加え、詳細な形態解析を行ったところ、ジェフリー・ジョリーは、腕と触腕上の特徴的な吸盤パターンを発見しました。そこでシドニーにあるオーストラリア博物館の分類学者であるアマンダ・リード博士に、より詳しい調査と正式な同定の協力を仰ぎました。
分析の結果、このダンゴイカは新種であることがわかり、Euprymna brenneri(ブレナーミミイカ)と命名されました。この種はEuprymna属の11番目に加わり、将来の系統比較研究において有益となるだろうと考えられています。
「シドニー・ブレナー博士は、私にとってメンターであり、友人でした。」OIST分子遺伝学ユニットを率いるダニエル・ロクサー教授は言います。「この新種に博士にちなんだ名前をつけることができたのを嬉しく思っています。ブレナー博士が分子生物学分野を創設したことの重要性、そして、沖縄やシンガポールをはじめ世界中で科学の発展を支えた多大な努力を証として残せるからです。」
また研究チームは、系統学だけでなく、ダンゴイカの体の下側にある袋状の器官における発光バクテリアVibrio fischeriとの共生関係にも注目しています。ダンゴイカは日中海底の砂の中に身を隠し、夜になると捕食のために出てきます。擬態や、暗闇での捕食の成功率を上げるために、発光するバクテリアを利用しています。
「発光バクテリアとイカの間には、複雑な共生関係が存在します。この関係を理解することができれば、ダンゴイカを、宿主と共生細菌の相互作用を研究する有用なモデル生物として利用できるかもしれません。」と共著者のオレグ・シマコフ博士(現 ウィーン大学分子進化発生学部)は説明しています。
研究者たちは今後、沖縄の海に生息する頭足類の豊かな多様性と、ダンゴイカ類の異なる種間関係をさらに探求していきたいと考えています。
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