世界的視野と社会貢献〜科学の役割とは?〜
グローバル化が急激に進む現代社会において、科学者は世界規模の課題や地域社会の発展に対してどのような貢献が求められているのでしょうか? 2018年1月13日(土)に都内で行われた「OISTフォーラム2018」は、「世界的視野と社会貢献―科学の役割とは?」をテーマに、次世代の育成に関わる教育者や、起業家、現役の博士課程学生を招き、科学とイノベーションについて、そして、世界的視野を持ち、地域社会への貢献の意欲に富む人材を育むために教育機関にはどのような役割が求められているかについて議論を行いました。(沖縄科学技術大学院大学(OIST)主催、朝日新聞社共催、ネイチャー・リサーチ協力)
OISTのロバート・バックマン首席副学長の代理として登壇した市川尚斉OIST R&Dクラスタープログラムセクション/技術移転セクション シニアマネージャーは、国内では他にあまり例のない、OISTの国際的且つ学際的な教育・研究システムを紹介した上で、こうしたOISTの野心的な取り組みが、大学発のイノベーションを世界全体と地域社会に還元していくための仕組みの一つであることを強調し、OISTが新しい時代の日本の科学技術教育のモデルとなりうる可能性を示しました。
続いて行われた基調講演では、まず、立命館アジア太平洋大学の出口治明学長が、日本の高齢化や働き方などの社会問題を国際的な観点で比較しつつ、大学の使命とは、学生たちが多くの人と出会い、沢山の本を読み、様々な場所を訪れる機会を提供することであり、大学こそが未来の創生力として、10年、20年後の社会の競争力を作っていくことを強調しました。そして若い世代に対して、先人によって積み重ねられた知識を学び真似することで考える力が得られること、「知識×考える力=イノベーション」というメッセージを投げかけました。 また、会場からの質問に対して、高齢者も活躍し続ける、年齢を考えない社会を作っていく必要があると述べました。
二人目の基調講演では、科学者として、創薬に関わるバイオテック企業や、科学、芸術、社会的な分野での起業を目指す若い才能育成のためのインキュベーターを米国で立ち上げたS&R財団理事長の久能祐子氏が、自身が経験されたそれぞれ異なる性格の起業スタイルを紹介しました。リスクを取ることに関する同氏の考えや、サイエンスからイノベーションにつなげるためには、まず仮説を立て、パイロット実験をし、それをスケールアップして社会的成果を評価、さらに社会的影響力を測定することでイノベーションとする「跳ぶように考え、這うように証明するイノベーション」が理想だとし、若い科学者に向けて「ビックビジョンを持ち、スモールステップを踏むことでよりよい世界を作っていこう」という考えを伝えました。
フォーラム後半は、「世界にはばたく若い世代へ」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、ネイチャーリサーチの編集開発マネジャーであるジェフリー・ローベンス氏をモデレーターに、パネリストには、理化学研究所 生命システム研究センター チームリーダーの高橋恒一氏、一般社団法人Glocal Academy理事長の岡本尚也氏、一般社団法人21 Foundation 代表理事であり、TEDxTokyo 共同創始者のパトリック・ニュウエル氏、そしてOIST博士課程学生ジェームス・シュロスを迎え、それぞれが意見を述べました。
その中で、「イノベーションとは何か」という問いに対しては、岡本氏が「新しい価値を生み出すものは全てイノベーションである」とする一方で、シュロス氏は「今あるものを向上させるものは既にイノベーションである」、さらに高橋氏は、「イノベーションは、既存の市場や雇用の形態、家族のあり方といった価値観について社会的変化を生むだろう」と述べました。そして、ニュウェル氏が「シニア世代でもイノベーティブ(革新的)でクリエイティブでいることはできる」としました。
「科学者が地域経済を発展させながら世界的課題に貢献するには」という問いに高橋氏は、「21世紀型の技術革新は、すぐにグローバルに展開されると同時にローカルの志向も持つため、それらの両立をわざわざ考える必要はない」としながら、「いかにインパクトの高い技術を創出できるかを考えていれば、結果として両方に貢献できる」と若い科学者にエールを送り、「科学者は人類の知のプラットフォームのような役割ができる」と岡本氏が付け加えました。また、シュロス氏は、「科学者はコミュニケーション能力を高めるべきで、地域社会への貢献として、科学をわかりやすく伝えることで地域の教育を向上していくことができる」と述べました。
若い世代の科学者に伝えたいこととして、シュロス氏からは、「やりたいことをする方法を見つけて欲しい。チャンスは無限大だ。自分に合うコミュニティーを見つけ、人々と一緒に働くことをすすめる」との、岡本氏からは「小さな進歩を大事にしてほしい」、高橋氏からは、「社会とテクノロジーが一体化する中で、ビジョンを持って何をしていくのか決めるのがよい」、そしてニュウェル氏からは「好奇心を持ち新しいことに挑戦し続け、自然とつながってほしい」との言葉が寄せられました。
フォーラムの終わりに、モデレーターのローベンス氏は、OISTのサイエンス・チャレンジを含む、イノベーションを生みだす可能性のある世界の教育機関のプログラムを紹介し、最後に「世界的視野で考え、地域で行動し、そしてイノベーションを進めましょう。」と述べ、フォーラムを締めくくりました。