沖縄発!ADHDペアレンティングプログラム
OISTシーサイドハウスに研究室をもつ発達神経生物学ユニットでは、注意欠如多動性障害(ADHD)に関する特性や対処法に関する理解を深めることを目的としています。ADHDとは集中し続けることが難しい、落ち着きがない、結果を考えずに行動するなどの症状がみられる神経発達障害で、ゲイル・トリップ教授率いる同ユニットでは島袋静香研究員を中心に、ADHD児童をもつ家族がADHDの症状に向き合い、効果的に対処するためのスキルの向上を手助けするために、日本人の子育て方法にあわせたペアレンティングプログラムを開発中です。
このプログラムでは、児童による適切な行動を両親が強化することによって、児童の行動を改善させていく方法を強調しています。現在日本ではADHDの対処法に関するプログラムはまだ数えるほどしかありません。島袋研究員が開発中の同プログラムでは、海外で既に効果を見せている方法を取り入れて日本向けに調整しています。例えば、ADHD児童の集中力や指示に従って行動する能力を向上させるために、あるゲームを取り入れていますが、ゲームそのものは日本で一般によく知られているものを起用しています。
島袋研究員が開発中の同プログラムのもう1つの特徴は、主に児童の行動に焦点をあてた通常のペアレントトレーニングの枠を超えて、ADHD児童をもつ親が日々直面している悩みや困難に着目し、それらに対する対応策についても重視しているという点です。「ADHD児童の行動にどう対処すべきか教える前に、まずご両親たちにご自身のストレスや怒りといった感情をどうコントロールすれば良いか、あまりためにはならない考えにどう向き合えば良いかなどのトレーニングを行います」と同研究員は説明してくれました。
島袋研究員は2012年にケーススタディを行い、ADHD児童の親が抱える悩みなどを明らかにした上で、2013年の夏第1段目の予備調査を実施しました。予備調査では、19の日本人家族がOISTシーサイドハウスを訪れて計11回のトレーニングセッションを経験しました。現在島袋研究員はこの時の参加者の反応や意見をもとに同プログラムを調整中です。今年はより多くの参加者による新たな試験が予定されており、これらを通じてこのペアレンティングプログラムの有効性を分析することにしています。
プログラムの開発で鍵を握るのがADHD児童による適切な行動をポジティブに評価し、またそれを強化することです。島袋研究員は、「これまでの研究でADHD児童は報酬に対する反応が、そうでない児童と比べて異なることが報告されています。ADHD児童はある行動に対する報酬が遅れることに対して非常に敏感で、いつ報酬がもらえるかを予測することが苦手です」と説明した上で、「ADHD児童が適切な行動をとった際には、できるだけすぐに、そして頻繁に報酬を与えることが大事です。この報酬とは、口頭で誉めたり、笑顔を向けてあげることでも十分です。日本人の親御さんたち、特に沖縄の方々は恥ずかしがり屋なのでそれが良いと分かっていてもお子さんを誉めることが苦手だという場合があります。この文化的背景・国民性の違いからくる習慣を躊躇しないようにすることは1つの課題でもあります」と話してくれました。
近い将来、島袋研究員は同プログラムを、ADHD児童を受け持つ学校の教師に対しても拡充することにしています。