活気に満ちた一週間
OISTでは、分野の壁を超えた学際的な研究の追求にとどまらず、芸術と科学の垣根を越える様々な取り組みを行っています。先週だけでも、OIST理事会及び評議員会の会合の開催に伴いノーベル賞受賞者や著名な科学者がOISTを訪問し、トーマス・ブッシュ准教授ら主催の「Coherent Control of Complex Quantum Systems(複雑量子系のコヒーレント制御)」と題したワークショップが開催されました。また、上原美智子さんによる絹織物展が始まったほか、講堂では、広瀬悦子さんのピアノコンサート、更にOIST理事でノーベル賞受賞者の李遠哲博士による人間社会の持続的発展に向けた喫緊の課題について語られたサイエンストークが開催され、キャンパスは大いに賑わいました。
5月9~10日に開催された理事会及び評議員会の会合では、大学の将来を左右する重要な決定がなされ、OISTの歴史に残る日となりました。なかでも特筆すべきは、今後10年間に大学の規模を2倍に拡充する将来計画の検討が決定されたことです。更に会合ではジョナサン・ドーファン学長より、第3研究棟の建設が2013年夏に始まり、2014年中に完成予定であることが報告されました。
理事会議長のトーステン・ヴィーゼル博士は、「多くのことが達成されたことを踏まえ、世界最高水準の大学院としてのOISTの地位を確固たるものにするためには今後何が必要かを検討していかなければなりません。」と述べ、「OISTが掲げる非常に高い目標を達成するためにふさわしい大学の規模を検討することは極めて重要です。」と強調しました。
また、元内閣府特命担当大臣(沖縄・北方対策、科学技術政策担当)の尾身幸次氏が、2013年10月付でOISTの理事に就任されることが決定されました。一方、李遠哲博士とマーティン・リース博士は今回の会合をもって理事をご退任されることとなりました。
5月11日には、李博士による「科学・技術と人間社会の持続的発展」と題した講演会が行れ、人間が環境や生態系に与える負荷(エコロジカル・フットプリント)を大幅に削減する必要性について語りました。李博士は「戦う相手は自分自身です。」と述べ、「人類の生活を維持していくためには、私たちはもっと多くの取組みを行う必要があります。」と聴衆に呼びかけました。また、同博士は自らが議長を務める国際科学会議を含む主要団体が結束し、今後10年間にわたり地球環境変化に関する国際研究プロジェクト、Future Earth(地球の未来)を進めていくことなどについても語りました。
理事会及び評議員会のメンバーは、5月9日に開催された世界的に著名なピアニスト、広瀬悦子氏によるコンサートや、その前日には、熟練した絹織物作家として知られる上原美智子作品展のオープニングセレモニーにも出席しました。広瀬氏はこれまでモスクワ青少年ショパン国際ピアノコンクール(1992)やマルタ・アルゲリッチ国際コンクール(1999)などの権威ある国際的な音楽コンクールで数々の優勝を果たし、現在はパリに在住しています。上原氏は琉球伝来の技法を用いて羽のように軽く鋼鉄のように丈夫な絹の布を織ります。このようにして織られた作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)など世界中で展示されています。
5月8日~11日には、OIST量子システム研究ユニットを率いるトーマス・ブッシュ准教授が研究者65名を本学に招いて「Coherent Control of Complex Quantum Systems(複雑量子系のコヒーレント制御)」と称するワークショップを開催しました。本ワークショップは、量子力学分野における理論的研究と実験的研究をそれぞれおこなう優れた専門家及び学生を結集させることを目的に開催されました。OISTの学際的で国際的なアプローチに基づき、発表を行った研究者らは超伝導体から鳥といった多様な研究対象を使って物体の量子相互作用を理論的に理解しようと努めており、また研究者の出身地も欧州や北米、南米、アジア、アフリカと広範囲にわたっていました。
ドーファン学長は、「優れた学術と、研究、教育に世界レベルの文化的活動が織り込まれた一週間でした。これらは素晴らしい学びの場を象徴するもので、OISTが成熟した大学へと確実に近づいていることを示しています。」と科学と芸術が大学の発展に重要な要素であることを強調しました。