細胞分裂時の中心的なイベントである染色体凝縮メカニズムの一端が明らかに ~コンデンシンタンパク質複合体は染色体の掃除屋さん~

  全ての細胞は、遺伝情報を司るDNAを正確に複製し、分裂することで増殖を繰り返します。細胞はそれぞれ決まった周期で分裂と増殖を繰り返しており、複製された姉妹染色分体が分離し、染色体DNAが正確に2つの娘細胞に分配される時期を分裂期と呼びます。この時期に染色体は凝縮し、コンパクトで堅さを持った棒状の凝縮染色分体となります。この染色体凝縮は正確な染色体分配のために必須の過程で、コンデンシンと呼ばれるタンパク質複合体が中心的な役割を果たすことは知られていますが、その分子的メカニズムについては未だ多くの謎が残されています。

  この度、G0細胞ユニットの赤井祐子技術員らは、コンデンシンタンパク質複合体※1が、染色体上の不要な結合物を自ら除去することで、分裂期染色体凝縮ひいては染色体分配段階に寄与していることを発見しました。本研究成果は、2011年12月14日発行の英国の科学雑誌Open Biologyに掲載されました。

<今回の研究内容>

  これまで、コンデンシンタンパク質複合体は、染色体凝縮が起こる細胞周期の分裂期にかけて長大なDNAを凝集する役割を担うと考えられてきました。今回、赤井技術員らは、コンデンシンタンパク質がDNAアニーリング活性※2を利用して染色体上の不要な結合物を除去することを発見し、その除去過程に欠損があると正確な染色体分配が起こらないことを示しました。この除去過程はDNA修復の完了や分裂期染色体分配段階に寄与していると考えられます。

<研究成果のインパクト・今後の展開>

  これまでの凝集という概念とは異なり、染色体凝縮・分配とは、コンデンシンタンパク質がDNAアニーリング活性を利用して染色体上の不要な結合物を除去していく過程が本質だと考えられます。今後コンデンシンの分子活性をさらに解析することで、この分裂期の中心的なイベントである染色体凝縮・分配のメカニズムが解明されることが期待されます。

  この研究をリードした赤井技術員は、「今回、今まで積み上げてきた研究の成果が一つの形になり、英王立学会の雑誌に掲載されたことを嬉しく思います。今後、この分野が発展する端緒になれば幸いです。」と話しています。赤井技術員は、技術員として勤務しながら、博士号の取得を目指しています。

用語説明

  1. コンデンシンタンパク質複合体:細胞分裂時に、DNA を染色体というコンパクトな分配可能な構造体に凝縮させる必要性が生じるが、この染色体の凝集の過程で重要な働きを担っている。
  2. アニーリング活性:2本鎖のDNAが加熱されると変性して1本鎖になり、その後冷やすと相補鎖のDNAが互いに結合して再び2本鎖になること。

動画(染色体分配成功の1例と染色体分配失敗の3例)を見る。

染色体分配 成功


染色体DNAが正確に2つの娘細胞に分配

染色体分配 失敗


染色体上の不要な結合物の除去に失敗

 

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