新ユニットの研究紹介:DNAの見張り番

佐瀬英俊准教授が率いる植物エピジェネティクスユニットでは、植物と動物の双方に広く関連する問題として、エピジェネティックな変化はどのように生じるかを研究しています。

 

Dr. Larisa Kiseleva with several microbial fuel cells

シロイナズナ

 

An image of some of the bacteria from inside a microbial fuel cell in the Biological Systems Unit.

植物エピジェネティクスユニットのメンバー

 生物学の一般的な理解では、生物の外見や活動の大部分を支配する役割を担っているのが遺伝子であるということに疑論の余地はありません。しかしながら遺伝現象は、実はそれよりさらに高度な支配力であるエピジェネティクスに制御されています。エピジェネティクスは遺伝子の活性、不活性状態を決定するため、生物に様々な影響を与えます。エピジェネティックな違いとは、いわば一部の遺伝子をオフにし、他の遺伝子をオンにすることで心臓の細胞と脳の細胞の違いがつくりだされるといったことです。エピジェネティックな変化は、時に病気や癌の進行の原因となることもあります。エピジェネティクスの機構を通して、ある人の食生活がその人の孫の寿命に影響を与えることさえあるのです。佐瀬英俊准教授が率いる植物エピジェネティクスユニットでは、植物と動物の双方に広く関連する問題として、エピジェネティックな変化はどのように生じるかを研究しています。

 エピジェネティクスとは、DNAの先天的な遺伝子コードは変化しないものの、一時的に細胞が遺伝子を利用できなくなくなるような、DNAやヒストン蛋白質の化学的変化の多様性のことです。もし遺伝子が図書館においてある本だとすると、エピジェネティックな制御とは、本を奥の古い書庫に閉まい込んだり、自由に貸し出したりできる図書館員の役目にあたります。エピジェネティックな変化は、生物が必要とする時にだけ遺伝情報を使うことにより、その生物が環境に適応するのを助けます。しかし、このような調節は時に不具合をもたらします。例えばそれは、細胞が、正常な成長や発達に不可欠な広範な遺伝子にメチル分子を付加し、事実上それらを封印してしまう場合です。「なぜこのようなエピジェネティックな変化が自然発生するのかを知りたいと思っています。」と佐瀬准教授は語っています。

 この答えを解明するため、植物エピジェネティクスユニットは、無秩序なメチル化の証となる、奇形葉や不稔のような兆候を示す植物の変種、シロイヌナズナの変異体について調べています。次いで彼らは、この変異体ゲノムを配列決定し、それらを参照ゲノムと比較することで、こうした現象の原因となっている遺伝子を見つけ出そうとしています。これまでに分かってきたことの一つは、メチル基を除去する酵素に作用する遺伝子で、この遺伝子が変異すると、酵素が働かずメチル基は付加されたままとなるということです。

 「驚くべきことに、植物、哺乳動物を含む多くの生物が、きわめて類似した酵素、および遺伝子活性のエピジェネティックな制御に関するタンパク質の化学的修飾を利用しています。」と佐瀬准教授は述べます。したがって、彼の研究は、シロイヌナズナのみならず、他の生物のエピジェネティックな制御の解明についても同様に役立つことが期待されます。我々はそれにより、制御を司るエピジェネティックな変化を制御するものは何か、という問いの答えに一歩近づくことになるのです。

ショーナ・ウィリアムズ

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