OIST生体分子電子顕微鏡ユニットのマティアス・ウォルフ准教授が率いる研究チームは、COVID-19を引き起こすコロナウイルスSARS-CoV-2の特定抗体の有無を検出可能な血液検査を開始しました 。
2021年7日2更新
新沖縄県における新型コロナ抗体保有率の低さが判明。抗体の持続性も。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生体分子電子顕微鏡解析ユニットの研究チームは、沖縄県内の医療関係者と協力して、2020年8月に学内の関係者や県内の住民から検体を採取し、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の抗体検査を行いました。本研究結果は、Scientific Reports誌で発表されました。
結果として、全体的に抗体価が非常に少ないことが明らかになりました。実際、OIST関係者の検体からは、抗体は検出されませんでした。この結果は、昨夏の日本の状況と一致しており、海外に比べてウイルスに曝露した人の割合が非常に少なかったと考えられます。
研究チームは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を作り、2段階の酵素結合免疫吸着法(ELISA)による抗体検査を行いました。同検査は、沖縄県内の病院から提供された対照検体で有効性が検証されており、米国食品医薬品局(FDA)も以前から緊急時の使用を承認しています。
OIST関係者に対して検査を行う上で課題となったのが、医療従事者に頼らずに検体を提供しなければならないということでした。そこで研究チームは、被検者が自分でできる指穿刺による採血方法を考案しました。その結果、重要な発見がありました。それは、指穿刺による採血は、医療従事者による静脈血採血と比較しても、抗体検査の精度が同等であるということです。指穿刺による採血は、患者自身が自宅でも素早く簡単に行えるため、非常に便利です。
本研究では、新型コロナウイルス抗体の持続性にも注目しました。抗体は、感染から8ヶ月半後にも存在しており、これはワクチンが長期的な予防効果をもたらすことを示唆しています。
同研究の終了後、研究チームはさらに4,500人分の検体を検査しており、今後も沖縄県の医療機関から提供される検体を検査する予定です。また、OIST免疫シグナルユニットの石川裕規准教授が中心となって行っている、ワクチン接種後の抗体価を調査する新たな共同研究も現在進行中です。
2021年4月25日更新
沖縄の動物医療従事者にOISTの抗体検査
昨年4月、ペットの飼い主が新型コロナウイルス感染症に感染した場合について不安の声が聞かれました。なぜなら、猫が同ウイルスに非常に感染しやすく、また人から動物、そしてまた人へと伝播する新たな感染経路を辿るのではないかと考えられたのです。この懸念は、アメリカのブロンクス動物園のトラが新型コロナウイルス感染症の検査で陽性反応を示した際、飼育員から感染したと考えられたことをきっかけに、国際的に注目されました。
沖縄県獣医師会の担当者は、次のように説明します。「新型コロナウイルスについては未だ分からないことが多くありましたが、私たちは皆、動物由来の感染症の可能性が高いと考えていました。5月には、動物医療従事者の感染リスクが他の職業よりも高いという記事を目にしました。これは、猫などのペットを介した感染経路が考えられることや、他のスタッフとの距離が近く、社会的な距離感を保つことが難しいためではないかと考えられました。」
当時はPCR検査の数が限られていましたが、OISTの抗体検査が利用可能になったとき、沖縄県獣医師会は県内の動物医療従事者の検査をOISTに対して依頼し、2020年9月に、OISTは獣医師や動物医療従事者に抗体検査を行いました。
OISTのプロボストであるメアリー・コリンズ博士は、次のように述べています。「当初は動物の検査を行う予定でしたが、猫の鼻咽頭スワブを採取するのは容易ではないことがわかりました。一方、動物医療従事者もウイルスに曝露されている可能性があるため、彼らに検査を提供し、感染率が特に高くないということを知ってもらうことで安心してもらいたいと考えました。」
新型コロナウイルス感染症に関して多くの研究が行われたことにより、現在は動物医療従事者が特別に高い感染リスクを負っているわけではないと考えられています。
2021年4月25日更新
沖縄の救助隊員にOISTの抗体検査を実施
2021年1月、沖縄では那覇市を中心に新型コロナウイルス感染症が周期的に拡散し始めました。これを受けて、沖縄県は独自の緊急事態宣言を発出しました。那覇市消防局の救助隊は、新型コロナウイルス感染症に感染している疑いのある傷病者数百人を搬送し、そのうちの多くが後に検査で陽性反応を示しました。
そこで、新型コロナウイルス感染症に感染した救助隊員の人数を把握するために、65人の消防士と救助隊員にOISTの抗体検査を実施しました。
「第一線で働く彼らは、かなりの頻度で県内の救助活動を行っていたため、ウイルスへの曝露のリスクが高まっているかどうかを確認する小規模な調査を行いました。」とプロボストのメアリー・コリンズ博士は述べています。
2020年10月15日更新
OIST学内抗体検査結果の公表
2020年8月、OISTは、職員・学生全員を対象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体を分析するための血液検体の提出を呼びかけました。約1200人のうち635人が参加した分析の結果、これらの検体のいずれにもCOVID-19の抗体がないことが判明し、medRxivのプレプリントサーバーに論文が投稿されました。
「結果は、ほぼ間違いなく、検体提供者の中にウイルスに感染した人がいなかったことを示すものです。今後もキャンパス内外でCOVID-19ガイドラインを遵守することが望まれます」と、OISTのプロボストでウイルス学者のメアリー・コリンズ博士はコメントしています。
コリンズ博士は、OISTで確立された抗体検査は非常に感度が高く、かつ特異的であることを強調しています。4月にPCR検査でCOVID-19の陽性が確認された沖縄県民のサンプルを用いたところ、陽性の結果が確実に得られました。この抗体検査は2段階のプロセスで行われており、世界中で行われている他の多くの抗体検査よりもはるかに精度が高いことを意味しています。
「ボランティアの検体検査をすることは実に有益なことであり、課題についてのアイデアを得ることができました。現在の計画では、本年度中に沖縄のコミュニティの6,000人を検査することになっています。これにより、沖縄でどれだけの人が感染しているかを知ることができます」と、コリンズ博士は説明しています。
OISTの産業医である田原裕之医師は、抗体検査の結果が出ても、OIST職員らの行動様式は変えてはならないと話します。「マスクの着用、こまめな手洗い、社会的距離を置くなど、新たな日常におけるガイドラインを守り続けてください。ワクチンが広く利用できるようになるまではそれは変わらないでしょう。」
このプロジェクトを監修した生体分子電子顕微鏡解析ユニットのマティアス・ウォルフ准教授は、さらに以下のように付け加えています。「この病気に対する抗体を誰も持っていなかったという検査結果をOISTメンバー全員に知ってほしいです。このことは、健康衛生ガイドラインに従う必要性を強調する点で非常に重要です。」
Updated October 15, 2020
OISTの抗体検査に関わる科学および異分野間の学際的取り組みについては、ウェブ記事「学際的アプローチにより実現したOIST抗体検査」をご参照ください。
2020年5月8日更新
OIST生体分子電子顕微鏡ユニットのマティアス・ウォルフ准教授が率いる研究チームは、COVID-19を引き起こすコロナウイルスSARS-CoV-2の特定抗体の有無を検出可能な血液検査を開始しました 。
現在感染している患者のウイルスからRNAを検出するPCR検査とは異なり、この血液抗体検査は以前ウイルスに感染した人を特定するため使用されます。新型コロナに対する特定の免疫反応は、ウイルスが消失した後も比較的長い期間、検出が可能です。ただし、免疫が持続的かどうかはまだ不明です。
OISTで使用される抗体検査は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)と呼ばれるものであり、ニューヨークのマウント・シナイ・アイカーン医科大学のクラマー研究室で最初に開発・検証されたものです。
「この抗体検査は、抗原として機能するスパイクタンパク質と呼ばれるSARS-CoV-2ウイルス表面の一部を使用しています。新型コロナウイルスに感染すると、免疫系が抗原に反応し、タンパク質の表面に結合できる特異的抗体ができます。」とウォルフ教授は説明します。
「抗体検査では、血清を結合抗原にさらします。特異的抗体を含んだ感染した人の血清は、抗原に結合します。 一連の段階で、結合する抗体の量を検出できるため、その人がCOVID-19にかかったかどうかを判断できます。」
本抗体検査を開始するため、スタッフサイエンティストのテギュン・キム博士とジェギョン・ヒョン博士は、博士課程学生であるヨンコン・キムさんのサポートを得て、クラマー 研究室から提供された遺伝子構造からスパイクタンパク質の成分を作って精製しました。 コロナウイルスに特徴的な「クラウン」形状を持つスパイクタンパク質は、ウイルスが宿主細胞への侵入を可能にするための鍵です。
また、博士研究員のメリサ・マフューズ博士は、検査のセットアップを担当しています。現在、チームは抗体検査を検証するため、対照実験(ポジティブコントロール)のサンプルを待っているところです。
OISTのその他の研究ユニットも現在、抗体検査をさらに改善するために共同研究をしています。 サクニクテ・トレド・パティノ博士は、パオラ・ラウリーノ准教授が率いるタンパク質工学・進化ユニットの博士研究員であり、大腸菌を使用した抗原生産の最適化を目指しています。
一方、ピナキ・チャクラボルティ教授が率いる流体力学ユニットの技術員、クリスチャン・ブッチャーさんは、日々の検査能力を拡大するため、検査プロセスの自動化に取り組んでいます。 現在、OIST研究者らは毎日約1,000のサンプルをマニュアル作業で検査することができます。
「最終的には、COVID-19の蔓延を完全に理解するため、沖縄のコミュニティの皆さんをこの検査を用いてスクリーニングし、政策決定に役立てることを期待しています。」と、ウォルフ准教授は語っています。
本研究技術については、沖縄県の医療関係者らとの対話がなされ、沖縄県は6,000人の住民のパイロットスクリーニングを要請しています。