HUMAN(人)

紫色の繊維状の物体に絡まった黄緑色の物体と色とりどりの小さな粒

「息もできないくらいに」宿主と病原体のロマンス

The Francis Crick Institute
作者:Tony Fearns and Beren Ayla

黒い背景に浮かぶ緑色の線状の光とその中に輝く赤い球体

細胞老化

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

老化の秘密を解き明かす:老化細胞の形態、小胞の局在、細胞骨格の再配列の複雑性を共焦点顕微鏡で解明 
 
細胞老化は、免疫反応の亢進に伴う不可逆的な細胞周期の停止を示す生物学的現象であり、老化や加齢関連疾患において極めて重要な役割を果たしています。細胞老化の複雑さを理解するため、OISTの河野准教授の研究グループは、最先端の共焦点顕微鏡を使用しています。この技術により、老化細胞の形態の変化を調べ、これらのプロセスの根底にある分子メカニズムを明らかにすることができます。これらの画像は、老化プロセスのより深い理解と、加齢関連疾患への介入の可能性に貢献します。 

この画像は、分裂回数の限界まで培養を続けることで、細胞周期が停止し複製老化に至ったヒト線維芽細胞(WI-38)を示しています。複製老化とは、体細胞が分裂を繰り返すことで染色体末端のテロメアが短縮し、ヘイフリック限界と呼ばれる分裂回数の限界を迎え、不可逆的な増殖停止に至ることによって特徴づけられる生物学的現象です。この2次元画像は、40倍の対物レンズを装着したZeiss 780共焦点顕微鏡を用いて2023年に取得されたものです。画像取得に先立ち、老化細胞を固定し、抗LAMP1抗体(特定の小胞-リソソームを示す黄色-オレンジ色-赤色の部分)と phalloidin-Alexa-488(細胞骨格を可視化するシアン色の部分)で染色しました。 

老化細胞は、細胞分裂はもはやしなくなったものの、代謝的な活性を保っており、様々な生理活性分子を分泌することができます。これらの細胞は周辺組織に有害な影響を及ぼす可能性があり、長期にわたって蓄積すると機能低下を招き、がん、神経変性疾患、心血管障害など、様々な病態に罹りやすくなります。様々なタイプの老化の分子機構と特異的特徴を理解することは、老化細胞が様々な加齢関連疾患に及ぼす影響を緩和するための介入法を開発する上で極めて重要です。最近、河野グループによって、新しいタイプの老化細胞、細胞膜損傷依存性老化(PMD-Sen)が発見されました。この新たなタイプの老化細胞は、細胞老化を探求する新たなツールであり、標的治療戦略の開発に貢献する新たな洞察を可能にするものです。 
 
豆知識:老化細胞は若い細胞とは形態学的に異なり、画像に描かれているような楕円形や、細長い、涙のしずく型、心臓のような形など、はっきりとした形状を示すことがあります。これらの形態学的変化は、老化過程におけるF-アクチンの再編成と関連しています。 
  
著者:Kamila Kozik 

黒い背景に浮かび上がる色とりどりの不規則な模様

ヒト肺がんの足場

The Francis Crick Institute
作者:David Novo, Zoe Ramsden, Camille Charoy, Charles Swanton, and Erik Sahai
画像提供:TRACERx Consortium

青と黒の線状の背景に浮かぶ緑色の複数の小さな楕円形

トキソプラズマCRISPR

The Francis Crick Institute
作者:Simon Butterworth

紫色の粒と黄緑色の線が交じった円

実験室で作られたヒトの胚 

The Rockefeller University

科学者は遺伝性疾患の発症に関する重要な知識を得るためにヒトの胚を用います。その疾患のひとつがハンチントン病です。 

ハンチントン病は神経変性疾患であり、脳の神経細胞が破壊され、運動障害や認知障害を引き起こします。ロックフェラー大学のAli Brivanlouを中心とする研究グループは、ハンチントン病を研究するため、ヒト胚の生きた細胞や幹細胞から培養した人工胚を用いています。ハンチントン病の発症は、あるひとつの遺伝子の変異によって引き起こされ、その最初の影響はヒトの初期胚で見られます。 

ハンチントン病の中核をなす遺伝子はハンチンチンと呼ばれています。この遺伝子は、ヒトの受精卵で発現し、その後全身の細胞で発現します。以前Ali Brivanlouの研究室の研究者たちは、脳のごく初期段階を模倣したヒト細胞の自己組織化3Dコロニーを用いて、発達した脳で実際にニューロンが死滅し始める数十年も前に、ハンチンチン遺伝子の変異による異常が脳の発生初期段階で生じている証拠を見出しました。 

新たな研究で、この研究者らは原腸形成と呼ばれるより初期の発生段階において、ハンチンチンの変異による影響を調査しました。この原腸形成時には、発生後2週間の胚が3つの胚葉を形成し始め、そこから脳細胞を含むあらゆる細胞の前駆細胞が出現します。変異のある胚とない胚を比較すると、あるパターンが明らかになりました。変異が起こると3つの胚葉のサイズに影響が見られました。しかしながら、このような初期の変化が、その後の胚の発生にどのような影響を及ぼすかは明らかになっていません。  

受精卵発生後わずか2、3日後でも、これらの細胞塊はすでに完全に成長した成体を構築するための基礎となり、調整とコミュニケーションの複雑なネットワークを形成しているのです。 
  
作者:Szilvia Galgoczi, Albert Ruzo, Christian Markopoulos, Anna Yoney, Tien Phan-Everson, Shu Li, Tomomi Haremaki, Jakob J. Metzger, Fred Etoc, and Ali H. Brivanlou 

黒い背景に浮かび上がる白い円の上部とそこから立ち上がる水色と青の放射状の線

さまよえる免疫細胞 

Institute of Science and Technology Austria 

病気と闘うためには、免疫細胞は効率的にターゲットに到達する必要があります。 
  
 強力な免疫反応として、感染や炎症時の免疫細胞の協調的な動きが挙げられます。細胞はどのようにして移動すべき場所を知るのでしょうか? 免疫細胞の一種、いわゆる樹状細胞は、生体の自然反応と適応反応をつなぐメッセンジャーのような重要な役割を果たしています。樹状細胞の移動は、リンパ節から放出される小さなシグナル伝達タンパク質であるケモカインによって誘導されます。Sixt グループの Jonna Alankoは、樹状細胞が移動する際、ケモカインを細胞内に取り込み、局所的なケモカイン濃度を減少させ、その後再び濃度の高い場所に移動することを実証しました。これにより樹状細胞は、リンパ節に向かう経路を容易に見つけることができ、集団移動をより効果的に行うことができるのです。樹状細胞の移動経路を可視化するため、Alankoは、数時間にわたる樹状細胞の軌跡を投影しました。 
  
作者: Jonna Alanko and Mehmet Can Ucar

色とりどりの小さな線でできた図

腫瘍の家系図の森

The Francis Crick Institute

自然淘汰によるがんの進化:生物種が時間の経過とともに周囲の環境に適応していくように、腫瘍も体内で進化し、時には治療に耐性を持ち、体の他の部分に転移することがあります。 
  
ガン細胞は有糸分裂によって分裂すると、その変異が娘細胞に受け継がれます。その結果、ガンの発生は進化の過程としてモデル化することができます。腫瘍の進化のパターンを調べるために、フランシス・クリック研究所のガン進化・ゲノム不安定性研究室の研究者たちは、診断から再発、あるいは手術後の治癒に至るまで、患者を追跡調査し、ガンがどのように発展するかを分析しています。TRACERxと呼ばれるこの研究は、Cancer Research UKの資金援助を受けており、800人以上の臨床試験中の患者と、英国内の13の病院を拠点とする250人の研究者のコミュニティが関与しています。 
 
この画像は、未治療の早期非小細胞肺癌患者400人以上の腫瘍進化系統樹を再構成したものです。各系統樹は1つの腫瘍の進化の歴史を表し、各枝は異なる変異セットを持つ癌細胞の亜集団(サブクローン)を表しています。 
 
患者の原発腫瘍を切除し、複数のサンプルを抽出して、そのDNA配列を決定しました。サンプルは、バイオインフォマティクスのパイプラインを通じて処理され、腫瘍に存在する突然変異が同定されました。その後、所内アルゴリズムを用いて変異が進化した順序が推測されました。この画像は、プログラミング言語Rを用いて変異の進化順序をプロットしたものです。これらの系統樹はすべて、進化の軌跡に違いがあり、直線的なものもありますが、ほとんどが分岐した系統樹で、その複雑さの程度はさまざまです。 
 
研究者たちは、これらの腫瘍が遺伝的に多様であればあるほど、患者のがんが治療後1年以内に再発する可能性が高いことを明らかにしました。また、特定の進化パターンを用いてがんの次の動きを予測し、上手くいけば予防できる可能性を示しました。 
 
作者:Kristiana Grigoriadis, Ariana Huebner, Abigail Bunkum, Emma Colliver, Alexander M. Frankell, Charles Swanton, Simone Zaccaria, and Nicholas McGranahan 

画像提供:Mark S. Hill, Kerstin Thol, Mariam Jamal-Hanjani, CRUK, BMS, TRACERx consortium, and TRACERx patients and their families

黒い背景に浮かぶ色とりどりの線が集まってできた複数の不規則な形

ミトコンドリア・セグメンテーション

The Francis Crick Institute
作者:Claudio Bussi

赤い目のような形とその中にある瞳のような緑色の円

「目」のような神経変性

The Francis Crick Institute
作者:Giulia Tyzack
画像提供:Rickie Patani (UCL and the Francis Crick Institute), Jia Newcombe (NeuroResource)

緑色で囲まれた赤紫色の物体

小脳からの単一ニューロン

The Rockefeller University
作者:Nathaniel Heintz 
画像提供:Elitsa Stoyanova and Maria V. Moya

紫の円状の線に囲まれた緑の黄色と赤の円から立ち上がるハート形の緑の粒

脊髄の系譜

The Francis Crick Institute
作者:Joaquina Delas Vives

紫、オレンジ、黄色が入り混じった燃えているような形の球体

陰陽

Institute of Science and Technology Austria 
作者:Michael Riedl

薄いオレンジ色の立方体の断面の中央に浮かぶ紫色の球体の連続

スフェロイド - 均一性のパラドックス

The Francis Crick Institute

あなたは画像における違いを見分けられますか? 科学者たちは、何千ものがん細胞を並行して培養して研究に使うとき、一見同じように見える3次元構造の微妙な違いを調べることができます。 
 
 
組織の細胞は、他の細胞や細胞外マトリックスと呼ばれる周囲の物質と常にコミュニケーションをとっています。これらのコミュニケーションを通じて、細胞は物理的・化学的シグナルを受け取り、組織がどのように振る舞うかを制御しています。フランシスクリック研究所の細胞・組織メカノバイオロジー研究室では、物理的特性と生化学的刺激の相互作用、そしてそれがどのように分子、細胞、組織レベルで生物学的機能を制御するかを研究しています。そのためには、細胞を3次元的に成長させる必要があり、分子生物学、工学、生物物理学、顕微鏡学、計算モデリングなど、さまざまな手法やアプローチを使って複雑な相互作用を捉え、研究することができます。 
 

この画像は、個々を分析するため、数千個のメラノーマ皮膚がん細胞を3次元的に増殖させたものです。がん細胞をマイクロウェル1個につき1個ずつ播種して、最大20,000個のマイクロウェルを含むプレート内で、並行して増殖させることができます。増殖する表面がない場合、がん細胞は分裂と増殖を続け、スフェロイドと呼ばれる球状の構造体を形成します。このスフェロイドは腫瘍を模倣した実験に利用することができます。 
 
多くの最適化が必要で、非常にデリケートなプロセスです。例えば、スフェロイドのサイズが大きくなると、球体の中心に十分な栄養を供給することがますます難しくなり、実験に使用する細胞の生存率に影響を及ぼします。最初に、がん細胞はそれぞれのウェルに入れられ、そこで生命そのもののように、似通った、しかし微妙に異なる存在へと成長します。 
 
これらの写真は明視野顕微鏡で撮影され、ソフトウェアFijiを使って分析されました。 
 
作者:Olivia Courbot and Alberto Elosegui-Artola  
画像提供:Alberto Elosegui-Artola, Brenda Canales, and Maria Benito-Jardon

赤い粒の集まりの中に線状に横たわる黄色い粒の集まり

記憶ニューロンのタンパク質

The Rockefeller University

脳細胞内のタンパク質を可視化することで、そのタンパク質の機能や、記憶形成や特定の神経疾患への影響について、多くのことを知ることができます。 

脳のニューロンは結合によって複雑な網状構造を形成しています。ニューロンがこれらの結合を絶えず適応させ、新しい結合を作り出すことにより、記憶が形成されるのです。ロックフェラー大学のRobert B. Darnellと彼の研究チームは、このような活動を起こさせる脳内の遺伝子とタンパク質の複雑な相互作用を研究しています。チームは、特殊な光の下で、種々のタンパク質がそれぞれ異なる色で光るように細胞の遺伝子を組み換えることによって、ニューロン内のタンパク質を可視化できるようにしました。 

パスワードを覚えたり、チェロを習ったりするとき、ニューロンの内部では何が起こっているのでしょうか?新しい記憶を形成するため、ニューロンはその細胞体だけでなく、樹状突起と呼ばれる他のニューロンに向かって伸びる部分や、シナプスと呼ばれる他のニューロンとの接続様式も変化させます。学習と記憶に関する我々の基本的な理解の一部は、認知機能の発達が阻害された状態の研究から得られています。例えば、その欠損によって脆弱X症候群、知的障害、自閉症の一部を引き起こす脆弱Xタンパク質は、脳機能において重要な役割を果たしていることが見つかっています。このタンパク質は、ニューロン間のシナプス結合制御に対応しているのです。ロックフェラー大学の研究者Robert B. Darnellと共同研究者達は、新たな研究で、脆弱Xタンパク質が2つの異なる活動をしていることを発見しました。このタンパク質は、ニューロンの樹状突起では、他のニューロンとの結合強化に必要なタンパク質を制御します。その一方で、ニューロンの細胞体では、DNAから他のタンパク質の生成物がどのように作られるかという全体的な状態をこのタンパク質が制御しています。 

この画像は、実験用マウスの脳をいくつかの工程を経て準備し作成されました。研究者らは、分子遺伝学を用いて個々のマウスニューロンをマーキングし、シナプスと細胞体を手作業で識別させました。次に、研究室が開発したCLIPという技術を用いて、タンパク質RNA複合体をその場で凍結し、組成を分析しました。研究者らは、細胞を厚さわずか1万2千分の1ミリの切片を作成し、それぞれのタンパク質を特定の波長の光を用い顕微鏡下で発色させました。 

作者:Caryn R. Hale, Kirsty Sawicka, Kevin Mora, John J. Fak, Jin Joo Kang, Paula Cutrim, Katarzyna Cialowicz, Thomas S. Carroll, and Robert B. Darnell 

四隅に小さな黄色い点がある無数の青い長方形

ヒトのテロメア

The Rockefeller University

研究者らは腫瘍の形成や老化の過程を理解するために、DNAの複雑な自己制御と修復メカニズムを研究しています。 

DNAは驚くほど細長い分子で、細胞の中で折りたたまれて染色体と呼ばれる構造をとります。DNA鎖の末端は特別なDNAの配列によってテロメアと呼ばれる構造をとることにより保護されていますが、このテロメアは加齢とともに短くなります。ロックフェラー大学のTitia de Langeらの研究チームは、このテロメアの短縮が体内で腫瘍の成長を抑制するのにどのように役立っているのか、またテロメアが、DNA修復機構とどのように相互作用しているのかを研究しています。画像はヒトの染色体を青で、テロメアを緑で示しています。 

時間が経つにつれ、染色体の末端にあるテロメアは短くなります。テロメアは細胞分裂のたびに短くなり、最終的にテロメアの予備がなくなると細胞分裂は停止します。テロメアの短縮は、個体の老化や寿命に影響します。このプロセスは長い間、老化の好ましくない副作用と見なされてきましたが、新しい研究によりテロメアは細胞が永遠に成長するのを防ぐことで体を守るという事実が示されました。ロックフェラー大学の研究者Titia de Langeの研究室は、テロメアの短縮がヒトのがん予防に役立つという証拠を初めて示したのです。 

この画像は、細胞を蛍光物質で染色して撮影されたもので、顕微鏡下で特殊な光を当てると、染色体とテロメアが異なる色で観察されます。 
  
作者:Isabelle Schmutz, Arjen R. Mensenkamp, Kaori K. Takai, Maaike Haadsma, Liesbeth Spruijt, Richarda M. de Voer, Seunga Sara Choo, Franziska K. Lorbeer, Emma J. van Grinsven, Dirk Hockemeyer, Marjolijn C.J. Jongmans, and Titia de Lange 

黒い背景に赤く浮かび上がるシーサーを模したOISTのロゴマーク

神経回路の模様形成

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

人体は、多様な組織からなる複雑な仕組みによって構成されています。それぞれの器官は、何十億もの細胞が協力して、私たちの健康を維持するための役割を果たしています。この細胞たちが作り出す微細な構造は、私たちの体の中で複雑なプロセスを調整するために不可欠です。病気と向き合うとき、その戦いは細胞レベルで始まります。 
 
この分野の研究では、細胞培養が疾患の研究や治療法の開発に欠かせないツールとして活用されています。体外の制御された環境で細胞を培養することで、細胞の特性やさまざまな反応を詳しく調べることができます。 
 
NEURAD技術は、培養細胞の分裂と成長を、予め決められた模様に沿って導くことを可能にしました。この技術は、神経科学者と工学者が共同で開発したものであり、自然な臓器の構造に似せた細胞培養組織の作成を実現し、新しい疾患治療法の開発に大きく貢献しています。 
 
この顕微鏡画像では、ヒトiPS細胞から分化した神経細胞がNEURAD基板上で培養されています。培養3週間後、神経細胞はβ3-チューブリンという神経細胞特有の細胞骨格タンパク質の免疫染色によって赤色で標識された、神経軸索と樹状突起の回路を形成しました。表面と細胞の接着性を調整することで、神経細胞はOISTのロゴを模りました。 
 
作者: Zakaria Ziadi and Dimitar Dimitrov 
画像提供:NEURAD