電子顕微鏡
エレクトロスプレーによるサンプル堆積システムの開発
私たちのユニットは、エレクトロスプレー(ES)技術に基づいた電子顕微鏡用の新しい生体試料作製システムの開発に取り組んでいます。ESのこのような応用方法には長い間注目してきました。ESは、溶媒和されていない「裸の」生体分子を生成できる可能性があり、これは論理的にはTEM / STEMで低電圧で画像化される試料の最も理想的な形となります。しかし、本来ESの応用は、非常に厳しい特殊な条件を満たしたサンプルにのみ適用できるため、一般的ではありませんでした。そのため、ESは生体高分子などの大きな分子にはほとんど適用されておらず、ESによる溶媒除去後に生体分子の構造がどの程度保存されるかはまだよくわかっていません。この問題を解決し、電子顕微鏡試料作製におけるESの可能性を探るために、私たちは実験装置を構築しました。困難なアイディアではありますが、この技術の実現は単一(生体)分子イメージングの分野に大きく貢献するはずだと考えています。
歳差電子ビームを用いたタンパク質結晶の直接イメージング法の開発
2021年に新竹教授が開発した新型電子顕微鏡の理論に基づき、2022年に大阪大学難波研究室のJEOL CRYO ARM300に独自のリングスリットシステムが組み込まれました。このシステムを用いたイメージングにより、電子顕微鏡の集光レンズの球面収差が非常に小さくなり、これまで直接観察が難しかった結晶内部の分子を高解像度で捉えることが可能となります。特に、生体高分子であるタンパク質の直接可視化や、電子線ダメージの影響を受けやすい有機無機ハイブリッド材料の結晶や薬物結晶の解析に高い効果を発揮すると考えられます。
この顕微鏡と解析システムの実証試験として、複数種類のサンプルの結晶化、電子顕微鏡によるイメージング、画像処理による解析を行っています。右の画像は、FFTフィルターを用いてノイズを除去した電子顕微鏡画像に、既知の結晶構造から生成したモデル図を重ねて表示しています。これは電子顕微鏡を用いて、結晶中の生体高分子結晶の構造を分子レベルで直接観察した世界初の事例となります。現在、より幅広いサンプルへの適応を目指し、試験を進めています。