世界に羽ばたくOIST修了生が在学生にアドバイス
沖縄科学技術大学院大学(OIST)で博士課程を修了した6名が、今年5月、学位記授与式や10周年記念式典に出席するため沖縄を再び訪れ、主に現役の学生向けに開催されたワークショップに参加し、博士号取得後の進路について紹介しました。
最初のワークショップは、OIST神経生物学研究ユニットで博士課程を修了したステファン・ポマー博士と、量子技術研究ユニット(光・物質相互作用ユニット)に所属していたトーマス・ニエッドゥ博士が行いました。両博士は、OISTを修了後、ヨーロッパの研究所で博士研究員(ポスドク)として活躍しています。
ポマー博士は2020年に博士課程を修了して沖縄を離れ、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが始まった年にドイツに帰国し、Universtätsmedizin Göttingenで神経科学の博士研究員として働いています。「これまでに学んできた知識や技術、そして実習で学んできたことを活かしたいと思ってポスドクに進みました。私は分子生物学を専攻していましたが、OISTで神経科学の分野に足を踏み入れる機会を得ました。神経科学の中でも非常にニッチで複雑な分野でしたが、努力をして習得したので、その技術を活かしたいと思ったのです。」
ニエッドゥ博士は、2020年に博士課程を修了した後、フランスに渡り、カストレル・ブロッセル研究所の量子光学のポスドクとなりました。
ニエッドゥ博士は、OISTでの博士課程研究とヨーロッパでの博士研究員としての研究との主な違いをいくつか挙げました。OISTでは、実験を自分で計画する自由が与えられており、それにはさまざまな課題が伴い、独立して研究を行う方法を学んだと述べていました。一方、博士研究員の仕事では、既に設計された実験に参加し、博士課程学生の指導を行うという重要な役割も担っているそうです。さらに、博士はOISTとの設備の違いについても言及しています。
「私が就職したフランスの研究所は、世界的に有名な研究機関ではありますが、入った途端、OISTの設備がいかに最先端であったかということに気づかされました。OISTでは全てが適切に管理されており、施設管理セクションが研究室のどの設備も電池が切れないようにしてくれるので、いつも安心して実験を行うことができます。」
二番目のワークショップは、量子システム研究ユニットに所属していたイリーナ・レショドコ博士と、量子ダイナミクスユニット出身のジャバオ・チェン博士が担当しました。両博士とも博士課程を修了後、企業に就職しました。
ノルウェー在住のレショドコ博士は、2つの職を兼務しています。WAYのAIチームリーダーとしてシミュレーター・プラットフォームを用いた仮想の運転教習教官の構築に取り組むチームを率いる傍らで、ノルウェー科学技術大学の客員研究員も務めます。仮想運転教習スキームの開発に取り組むWAYでの業務において、理論量子物理学からAI分野への転向を果たしました。
レショドコ博士は、自身の苦い経験を通して得た教訓を述べました。「引っ越しには意外とお金がかかるので、ぜひ費用を支援してもらえるよう就職先に頼んでみてください。昇給の交渉は常に続けるべきですが、会社にとって良いタイミングを考えるべきです。そして、書面での内定通知を受け取る前に住居の契約を結ぶなど、取り返しがつかないようなことをしないようにしてください。」
チェン(陳)博士は、現在、東京都に本社を置く株式会社 QunaSys (キュナシス)で量子コンピューターのソフトウェアエンジニアとして量子コンピューターの力を最大限に引き出すためのクラウドサービスを開発しています。
博士は、OISTでの経験について、次のように述べました。「OISTで学んだことは、博士論文には含まれなかった神経科学や機械学習も含め、ほぼすべてが現在の仕事に役立っています。これらの分野に関する問題に出くわしても、ほとんど直感的に理解することができます。境界のない環境で学べたことが、恵まれていました。」
チェン博士は、就職後の生活はそう変わらないが、ひとつ大きく異なるところは、研究に取り組む際の考え方であると述べています。「博士論文や研究論文を執筆していたときは、少し完璧主義であることがいいことだと思っていました。しかし、産業界では、いかに合理的な時間の範囲内で価値を提供するかということを考えます。すべてのステップを完璧にこなすのではなく、各ステップにおいて、80%の完成度で最低限でも実行可能なプロジェクトをいかに提供するかを考えます。」
最後のワークショップでは、光学ニューロイメージングユニットの元学生で、現在はノルウェーのHadean Ventures社でライフサイエンスベンチャーキャピタルアナリストを務めるレオニダス・ジョルジオ博士と、かつて数理理論物理学ユニットに所属し、現在はルーマニアのUpgrade Educationの運営部長を務めるアドリアン・ダビド博士が登壇しました。
Hadean Ventures社は、ヨーロッパで有望な生物工学系のスタートアップ企業を発掘し、投資を行っています。ジョルジオ博士は、ベンチャーキャピタルアナリストとして企業の担当者と面談し、有望なプロジェクトについて議論し、その企業を分析・評価して投資するかどうかを判断したり、資金提供した企業のポートフォリオを管理したりしています。
ジョルジオ博士は、次のように述べています。「私は、世の中に少しでも多くの価値を生み出せるような道を選びました。博士号はとても役に立ちます。多くの生物工学系のベンチャーキャピタルでは、最低要件となっています。」
ジョルジオ博士はさらに、現在ではあらゆるリソースが利用できるため、目標を達成するためにほぼどのようなことでも学ぶことができると述べたうえで、「しかし、すべてを学ぶのではなく、選択する必要があります」とつけ加えました。
ダビド博士は、OISTで学んだコミュニケーション、コンフリクトマネジメント、時間管理などのソフトスキルが、Upgrade Educationにおいて高校生の指導や業務管理といった新たな役割を果たすうえで非常に役立っていると述べました。
「OISTにいる間、学内のコミュニティ活動に深く関わっていました。学生評議会員を4年間務め、ピアサポートシステムも立ち上げました。自分は人と関わることが本当に好きなんだと気がつきました。」
ダビド博士は、次のように述べています。「人脈を広げる活動に力を入れ、数多く行ってください。周りに手を差し伸べ、問いかけ、粘り強く活動してください。そして、万が一学問の世界から離れることになった場合にどうするか、代替案を常に持っておくことが大切です。」