1万もの変異体からRNAの機能を探る

多様な生物のゲノムに存在するリボザイムというRNA分子は、まだ未解明な点が多くありますが、一万余りの変異体を作成して活性を測定することで新たな知見が得られました。

   リボ核酸酵素、いわゆるリボザイムは、化学反応の触媒の役目をするRNA分子です。DNAと非常に似ているRNAはA、C、G、Uという頭文字で表される、塩基という4種類の化学物質が、DNAでコード化された遺伝子情報に従って連結されてできている線形分子です。

 リボザイムは、例えばある種のウィルスの複製機構など、主要な遺伝プロセスや生化学反応に関与しています。リボザイムは30年以上も前に科学者により発見されましたが、脊椎動物を含む様々な生物においてこのRNA構造が見つかったのはつい最近です。リボザイムの役割や機能の多くが未だ解明されていない中、これらの発見は研究者たちの新たな関心を呼び起こすきっかけとなりました。

 研究者らは通常、RNAの塩基配列に変異を導入することで、リボザイムの構造や特性を理解しようとします。機能しているリボザイムの特定の塩基を別の塩基に置き換える、つまり「変異」させ、そのリボザイム変異体が触媒機能を保持しているかどうかを検証します。しかしこれまでの技術では、一度の実験でせいぜい数十種程度の変異体しか作成できませんでした。一方で小さなリボザイムでも非常に多数の変異体が存在しうるため、研究者はリボザイム変異体を作成するにあたって、変異対象としてごく一部の部位を恣意的に選択する必要があります。そのため、機能的に重要な多くのリボザイム変異体を見逃してしまう可能性があったのです。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)核酸化学・工学ユニットの小堀峻吾博士と横林洋平准教授は、リボザイムの変異体を研究する上で、このような制約を克服した、効率的で偏りのない方法を開発し、その研究結果が Angewandte Chemie 誌に掲載されました。

  「特定の変異体を選択するのではなく、特定のリボザイムについて可能な限り多くの変異体を作成し、それらの機能を検証することを目指しました」と横林准教授は説明します。「一塩基変異体」とは、元のリボザイムと比較して一つの塩基が異なるリボザイムのことを言います。同様に「二塩基変異体」とは、元のリボザイムと比べて二つの塩基が異なるリボザイムのことを言います。今回の研究対象となった48塩基からなる比較的小さいリボザイムでも、合計10,296種類もの一塩基および二塩基変異体が存在します。

  「私たちはイネのゲノムの中からで見つかった『ツイスター型リボザイム』における全ての一塩基および二塩基変異体を作成し、OISTが保有する高性能DNA配列解析装置の力を借りてその触媒活性を測定しました。この網羅的なアプローチにより、どの塩基がリボザイムの活性により重要であるかということが、非常によく理解できました。」

  さらに、このリボザイムが変異に対して非常に耐性が高いという重要な発見がありました。「この結果は意外でした。私たちが研究していたリボザイムは非常にコンパクトで複雑な構造を持つことが知られていました。」と横林准教授はコメントしています。多くの塩基がリボザイムの繊細な構造の維持に関与しているように見えますが、我々が作成した変異体の多くが検出可能なリボザイム活性を示したのです。このような変異に耐える能力は、進化の観点から考察しても有利であり、このことは多様な生物種において広くリボザイムが存在する理由を説明しているのかもしれません。

  リボザイムをより深く理解することは、実用的な意義もあるかもしれません。なぜならリボザイムを応用することにより、生きている細胞やウィルスの遺伝子発現を制御することが可能であり、将来これらの技術を遺伝子治療や再生医療などに利用できる可能性を秘めているからです。

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