複合ナノ粒子をいとも簡単に作成

ナノ粒子技術研究ユニットの研究員たちが、生物医学用に3成分のナノ粒子を合成する新しい方法を開発しました。

 ナノ粒子の研究は非常に広範囲にわたります。特定の性質を持ち、複合体として機能する非常に微細な粒子の集まりであるナノ粒子の研究は盛んで、生物医学分野からレーザー研究に至るまで、目的にあった特性を有するナノ粒子の作成法はますますその重要性を増しています。このたび、ムックレス・ソーワン准教授率いるナノ粒子技術研究ユニットのマリア・ベネルメッキ研究員とユニットのメンバーたちは、生物医学関連においてナノ粒子の合成を飛躍的に前進させることに成功しました。本研究成果は Nanoscale 誌に発表されました。

 医学分野においてナノ粒子は、診断と治療時の画像診断用の薬剤として使用することができます。その他の用途としては、標的への薬物送達や創傷治癒などがあります。しかし、生物医学用のナノ粒子の作成には多くの課題があります。 現在、ナノ粒子は主に化学物質を使用して作られていますが、医療目的でこの粒子を使用するには問題があります。化学物質が患者に害を及ぼす可能性があるからです。さらなる問題点としては、作成プロセスに数段階を要し、粒子サイズを制御することが難しく、また、粒子は比較的短時間しか安定保存できないといった点が挙げられます。ベネルメッキ研究員らは、各成分がそれぞれ有用な特性を有する3成分から構成された、生体適合性のある三元複合体ナノ粒子を作成しました。しかも、化学物質を使用することなくこれを達成しました。この新しい方法により、粒子サイズを自在に操作することができ、いとも簡単に様々な用途に合わせた作成が可能となりました。また、研究チームは、長期保存のために安定性を向上させる方法も開発しました。

 本研究で作成されたナノ粒子は、鉄と銀を中心核としています。この二元素により、ナノ粒子は二つの重要な特性を持ちます。1つは鉄がナノ粒子を磁化するため、研究者はナノ粒子を思い通りに動かすことができるということです。2つ目は銀の特性で、画像化などの撮像に優れているということです。これは、銀の励起が銀自体の粒子より大きな検出信号を作り出すことで可能となり、銀はその小さなサイズにもかかわらず従来の顕微鏡や医療用画像装置で観察することができます。ナノ粒子の3番目の成分はシリコンの外殻であり、中心部の鉄と銀を取り囲んでいます。シリコンには生体適合性があります。つまり、シリコンは、合併症を引き起こすことなく患者の体内に取り入れることができ、中心部が破壊されるのを防ぎ、また、様々な生物医学的用途に対して合わせて操作することができます。 さらに、このナノ粒子は超常磁性的挙動も示します。つまり、この粒子は、磁場を加えたときだけ磁化するため、その磁気特性は誘導的ということです。

 複数の機能と安定性を有し、ニーズに合わせた大きさのナノ粒子を、化学物質を使用せずに簡単に作成できる技術は、画期的な成果です。この研究が成功した背景には、ユニットの各メンバーの幅広い専門知識と、専門分野の垣根を越えて学際的に研究する彼らの能力があったからです。応用への大きな可能性を秘めた本研究成果についてベネルメッキ研究員は、「三元複合体ナノ粒子は、MRI造影剤、生体磁気センサー、癌治療用の温熱療法、および標的への磁気的送達と移入といったように異なる用途で使用することが可能です」と述べています。将来皆さんが医療用画像診断や治療を受けるときには、ここOISTで開発されたナノ粒子が治療の一端を担っているかも知れません。

Nanoscale誌に掲載された本研究論文は下記からご覧になれます。
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/nr/c3nr06114k#!divAbstract

 (エステス キャサリーン)

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