シロアリは、何千万年も世界の海を横断してきた
本研究のポイント
- シロアリの仲間の中で2番目に多いレイビシロアリ科の自然史を明らかにする新しい研究成果が発表された。
- 主に木材の中に小さなコロニーを形成するレイビシロアリは、一般に原始的なシロアリと考えられているが、実はこの科について分かっていることはわずかである。
- 研究チームは、世界中で見つかった120種のシロアリのミトコンドリアゲノムを解読し、レイビシロアリ科が過去5000万年の間に40回以上も海を渡ったことを突き止めた。
- また、ここ数世紀は、人間を介して遠くの地に行き着いた種もあることが確認された。
- さらに、レイビシロアリ科の最も古い系統の中には、原始的な生活様式を持たない種も存在することが判明し、通説に疑問を投げかける結果となった。
プレスリリース
シロアリはゴキブリの一種で、約1億5千万年前に他のゴキブリ目から分化し、コロニーを形成して社会生活を営むように進化しました。現在、シロアリにはさまざまな種類が存在し、土の中でつながったトンネルの中で数百万匹の大きなコロニーを形成して生活するものもいますが、レイビシロアリ科のほとんどは、主に木材の中で5000匹に満たない小さなコロニーを形成して生息しています。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)進化ゲノミックスユニットの研究チームは、世界中の研究者と共同研究を行い、シロアリの仲間で2番目に多いレイビシロアリ科の自然史を明らかにし、それらが海を渡ったことで多様な進化が進んだことを明らかにしました。Molecular Biology and Evolution誌で発表された本研究において、シロアリがどこで生まれ、いつ、どのように地球全体に広がったかが明らかになりました。また、ここ数世紀では、一部の種が人間を介して遠くの地に行き着いたことも確認されました。
OISTの研究員で本論文の筆頭筆者であるアレシュ・ブチェック博士は、次のように述べています。「レイビシロアリ科は、約1億年前という非常に古い時代に他のシロアリから分化しており、小さなコロニーを形成することから、原始的であると思われることが多いですが、実は、この科について分かっていることはあまりないのです。」
さらに、本研究以前は、レイビシロアリ科の分子データはほとんどなく、異なる種同士の関係についてわずかに明らかになっていた情報も、外見に基づくものであったとブチェック博士は説明しています。先行研究で取り扱われていたのは、家屋でよく見られる害虫とされる種が含まれるシロアリでした。
研究チームは、包括的な知見を得るために、30年にわたって世界中から数百のレイビシロアリのサンプルを集め、その中から約120種を選び出しました。その中には、同じ種のサンプルが異なる場所から複数採取されたものもあり、多様なレイビシロアリ科の4分の1以上を占めていました。これらのサンプルのほとんどがOISTに持ち込まれ、DNAの単離とシークエンシングが行われました。
研究チームは、異なる種の遺伝子配列を比較することで、レイビシロアリの広範な系統樹を構築しました。
その結果、レイビシロアリ科はシロアリの中で最も多く海を渡っていることが判明しました。過去5000万年の間に40回以上も航海に出て南米からアフリカに渡り、新しくコロニーを形成した土地で数百万年かけて多様化し、新しい種が誕生したのです。
ブチェック博士は、次のように述べています。「レイビシロアリは海を渡るのがとても上手です。彼らの棲みかは木で出来ているので 、小さな船にもなります。」
研究の結果、ほとんどの属が南米で誕生し、そこから分散していったことがわかりました。1つの種が移動して複数の種に分化するには、数百万年という年月を要します。さらに、ここ最近では、主に人間を介して分散していることも確認されました。
さらに、本研究は、レイビシロアリが原始的な生活様式を持つという通説に疑問を呈しています。レイビシロアリ科の最も古い系統の中には、原始的な生活様式をとらない種も存在するのです。それらは、複数の木材にまたがる大きなコロニーを形成し、そのコロニーは地中のトンネルでつながっているのです。
OIST進化ゲノミクスユニットを率い、本論文の責任著者であるトマ・ブーギニョン准教授は、次のように述べています。「シロアリや、その多様な生活様式や社会生活の規模について私たちが知っていることがいかに少ないかということが、この研究で明らかになりました。シロアリの行動や生態についてより多くの情報が蓄積されるにつれて、この系統樹から昆虫の社会性の進化や、シロアリがどのようにしてここまで繁栄してきたかについて、より詳しく明らかになるでしょう。」
ヘッダー画像提供:アレシュ・ブチェック博士
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