沖縄の涼の知恵を未来へ:伝統工芸品「芭蕉布」を活性化
日本の最南端に位置する沖縄県は、夏になると高温多湿になることで知られています。今日の沖縄では地元の人々も観光客も冷房が効いた屋内で暑さをしのぐことができますが、琉球王国時代、人々は、「芭蕉布」と呼ばれる織物をまとって涼をとっていました。
伝統的な衣服に使われていた芭蕉布は、沖縄に自生する、バナナと同じバショウ科のイトバショウ(糸芭蕉)を原料としています。1974年に国の重要無形文化財に指定された「喜如嘉(きじょか)の芭蕉布」は、イトバショウの繊維を糸にして織りあげる布で、沖縄の気候風土に適した独自の性質が備わっています。
「芭蕉布には通気性が非常に良いという特徴がありますが、これは糸の原料として使われるイトバショウの部分に、繊維細胞が多く含まれていることが関係しています。繊維細胞は長い空洞の管のようになっており、その穴は汗を蒸発するのを助けるので、涼しくてさらりとした布になるのです」と説明するのは、OISTサイエンス・テクノロジー・グループの研究者である野村陽子博士です。野村博士は、OISTイメージングセクションの小泉好司博士の協力の下で、この素材の構造と化学的な特性の研究を行っています。
しかし、芭蕉布生産者の高齢化が進み、後継者不足もあることから、近年生産量が低迷しています。
OISTでリサーチユニットアドミニストレーターを務める新里瞳さんは、「イトバショウの栽培から最終的に芭蕉布が仕上がるまで、23以上の工程がありますが、そのすべてが手作業で丁寧に行われています。この方法は、13世紀か14世紀から受け継がれており、現在もほとんど変わっていません」とし、また、イトバショウ栽培に携わる人が減り、原料の生産量も減っていると指摘しています。
これらの問題に対し、野村博士と新里さんは、機械の力を借りることで芭蕉糸の生産量を増加させる方法を模索しています。
具体的には、イトバショウの繊維を効率よく、しかも環境にやさしい方法で取り出す生物工学の技術開発や、取り出した繊維を機械で紡いで芭蕉糸にする新たな方法の確立に取り組んでいます。
芭蕉糸は、従来は手作業で織られていましたが、現在OISTの研究チームは、この素材が工業用織機に耐えうる強度があるかどうかを調べています。
「従来の機械で芭蕉糸を使って布を織るのは初めての試みなので、どうなるか未知数です」と新里さんは述べています。
まずは芭蕉糸と、それに似た糸を混ぜて織り上げた布でシャツを制作する予定で、最終的には芭蕉糸を100パーセント使用した製品を作ることを目標としています。
近日中には、沖縄のリゾートウェア・ブランドで知られる、レキオ株式会社の嘉数義成代表の協力のもと、京都府にある株式会社 AKAIにて試織し、沖縄の伝統的な「かりゆしウェア」を生産する試みが行われる予定です。研究チームは、芭蕉糸がかりゆしウェアのような普段着に使用されることで、新しい世代の沖縄県民にその素材に触れてもらい、涼しさを感じてもらいたいと考えています。
野村博士は、「沖縄でも若い人は芭蕉布のことをあまり知りません。機械で作られた新しい芭蕉布を目にすることで、伝統的な芭蕉布について知る良いきっかけになると思います」と言います。
また、この糸を沖縄県内外の織物業者に提供し、自社製品の生産に利用してもらうことも計画しています。
本研究プロジェクトは、現在、沖縄銀行のふるさと振興基金より資金援助を受けているほか、かりゆしウェア製作の資金を調達するために、冊子『Musaを織る手 先人の知恵と科学』の販売も行っています。
この冊子では、喜如嘉の芭蕉布の文化的・歴史的な意義を、製造工程の詳細な説明とともに紹介しています。また、芭蕉布の特性を探る最先端の科学技術についても触れています。
本プロジェクトの詳細、および冊子の購入を通じてプロジェクトの支援をされたい方は、OISTウェブサイトOkinawa Musa -Itobasho Projects-のページをご覧ください。