次世代太陽電池の改良に向けて
ペロブスカイトと呼ばれる汎用性の高い化合物は、次世代の太陽エネルギー技術への応用が期待されています。しかしペロブスカイトを用いた素子は効率が良く比較的安価であるにもかかわらず、まだ完成された技術ではありません。というのも、原子レベルでの構造的欠陥が生じることが多いからです。
OISTエネルギー材料と表面科学ユニットのヤビン・チー教授と研究チームは米国ピッツバーグ大学の研究者らと協力し、素材に生じる欠陥構造がイオンの変移を引き起こすことでペロブスカイトを不安定にするという特性を明らかにしました。ACS Nano誌で発表された研究者らの発見は将来、ペロブスカイト太陽電池を最適化するための工学的手法に役立つかもしれません。
「欠陥構造の存在は以前から知られていましたが、その正確な化学的性質は理解されていませんでした。この研究でペロブスカイト素材の基本特性を明らかにすることができ、技術者が将来ペロブスカイト素材をさらに改良するのに役立つでしょう。」と、OIST博士課程の学生で本論文の筆頭著者であるコリン・ステッカーさんは説明します。
表面レベルの問題
ペロブスカイト化合物は、電子工学、工学、さらには太陽光発電に役立つユニークな構造を持っています。光を吸収し、半導体の電流を担う電荷キャリアの生成および電荷輸送の特性に優れています。他の機能を持つ材料層の間にペロブスカイト素材を挟みこむことでペロブスカイト太陽電池が形成されます。しかしペロブスカイト層に生じる欠陥によって隣接する層との間の電荷移動が阻害され、デバイスの全体的な性能および安定性が妨げられることがあります。
このペロブスカイトの欠陥による電子的および動的特性を理解するため、OISTの研究者らは走査型トンネル顕微鏡を用いて、ペロブスカイト表面の個々のイオンの動きの高解像度画像を撮影しました。
画像を分析したところ、ステッカーさんらは、表面の原子が欠落して生じた穴に気づきました。さらにペロブスカイト表面の臭化イオンのペアの場所が転移し、向きも変わっていることがわかりました。そこでピッツバーグ大学の研究者らが、これらのイオンがとる経路をモデル化するために一連の理論計算を行ったところ、実験観察の結果と一致しました。
この研究で、空孔が生じることでイオンがペロブスカイト素材の表面で転移している可能性が高い、という結論にいたりました。イオンの移動メカニズムを理解することは、将来、研究者や技術者がペロブスカイトの欠陥の構造的、機能的影響をやわらげるのに役立つかもしれません。
現在広く使用されているシリコンの代替物として有望視されているペロブスカイトですが、商業化するためにはさらなる技術的改良が必要であることも知られています。
「ペロブスカイト表面はこれまで予想されていたよりもずっと動的なものだったのです。今回の発見により、欠陥の影響とイオンの転移の影響が素子の改良のためにより正確に役立てることができるようになればと期待しています。」とステッカーさんは抱負を語っています。
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