OIST理事、原発事故調査の功績により受賞
12月3日、米国科学振興協会(AAAS)は2012 Scientific Freedom and Responsibility AwardをOISTの黒川清理事に授与すると発表しました。本賞は、社会政策に関わる社会科学の自由と責任の発展に大きく寄与した科学者や技術者に贈られるもので、黒川理事は東京電力福島第一原子力発電所事故の事故調査における功績が認められての受賞となります。
黒川理事は、事故原因究明のための調査・提言を行うために、国会に初めて設置された独立調査機関である東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の委員長として、わずか半年で綿密な報告書を取りまとめました。報告書の作成にあたり、複数の現場の視察、海外の専門家の意見を聴取するための海外調査、被災住民や原発の作業従事者を含む、延べ1,100名以上、数百時間に及ぶヒアリングが行われました。その結果、国会事故調は、国民の安全を守る重要な予防対策と規制制度が設けられていなかったと結論付けました。
事故調査を要求する国民の声に対し、黒川理事は当初より「先進国では通常、独立した調査委員会を設けるのに、なぜ日本ではそれが行われてきていないのか」と考えていました。日本の憲政史上初めて国会に設置された召喚権限を持つ独立した調査委員会の委員長に全会一致で選任された同理事が、まず取り組んだのが適切な委員を選任することでした。この使命は「ミッション・インポッシブル」に思えたと理事は振り返ります。
驚くべきことに、調査委員会の透明性を確保するため、黒川理事は1つの会議を除き、全ての会議の様子を英語への同時通訳付きでライブ配信しました。また、日英両言語で書かれた自身のブログやFacebook、Twitterといったソーシャルメディアを通して情報を発信しました。
黒川理事が期待したのは、インタビュー中継や英訳をオンライン上で提供することで、世界が日本の過ちから学べるということでした。そして、調査の全容を透明化し、報告書で将来に向けた7つの提言を行うことで、日本の信頼を取り戻そうとしたのです。
「福島(原発事故)の教訓から学び、社会のいろいろな制度疲労を変えられなければ、日本は沈没しかねないと思っています。」と理事は自身のブログでコメントしています。
黒川理事は説明責任に関する日本の慣習を変えただけではなく、それを最新の情報技術を駆使して行いました。委員会の報告書について、理事は「この貴重な教訓を世界の共有財産とするべきだ」と語っています。
2011年3月11日に起きた悲惨な事故の検証に尽力した功績を称えて贈られるAAASの賞は、来年2月、米国ボストンにて黒川理事に授与されます。
黒川清理事は日本学術会議会長、内閣特別顧問(科学、技術、イノベーション担当)等の要職を歴任し、日本における教育改革の提唱者として、2005年以来OISTの創設に関わっている。現在は、政策大学院大学アカデミックフェロー。2011年には、旭日重光章を受章している。