DNC2011:脳の発達のメカニズムを探る

  「すごい、すごいわ!私がポスドクの頃にもこんな素晴らしい機会があればよかったのに!」発生神経生物学コース(DNC)2011の講師の一人、エルク・ステインさん(イエール大学)はコースとOISTについての感想をこう語ってくださいました。7月17日から31日まで、OISTシーサイドハウスキャンパスにて開催されたDNC2011は、オーガナイザーの一人であるデイヴィッド・ヴァンヴァクター博士(神経結合の形成と制御研究ユニット代表研究者)いわく、「神経回路の構築と維持を支えている分子メカニズムについて、若手研究者が広範囲に渡って理解を深めるための集中講座」です。本年で第二回となるDNC2011には、15名の様々な分野を代表する講師、7名のチューター、そして 28人の学生が世界中から集まりました。(参加した講師やコースの詳細はOIST2010OIST2011webサイトをご覧ください。)

  ヴァンヴァクター博士に神経発生生物学とその他の脳科学の違いを尋ねたところ、「どのようにバイオリンが作られたかでバイオリンの音色が決まる様に、脳の構築過程とその機能は密接に関連しているのです。」と、答えました。同博士は、「神経発生生物学とは、脳と神経システムの発達全般の基本となるメカニズムを探究する学問です。もし大学院生が神経科学の研究の世界に入り、脳の仕組みを理解しようとしているのなら、まずどのように脳が作られたのかを考えてみることが重要です。」と述べています。

  本コースでは、神経科学の発達史の講義から始まり、その後様々な実習や講義を通じて2週間に渡って神経発生学について学びます。ほとんどの人は、「ニューロン」と呼ばれる細胞が互いに情報を伝え合うことで脳が機能している事は知っています。しかし、どのように正しい数と正しいタイプのニューロンが配置されて神経システムが構築されているのか、どのようにニューロンが情報処理に最適な連携を構築するか、一連のこうした要素がどのように行動に影響を与えるのかは未だに明らかにされていません。参加者たちはこうしたテーマついて討論•考察するほか、実践的なスキルと実験テクニックに関するトレーニングを受けました。コース終盤には、参加者たちは神経システムの発達や維持の異常がどのような経緯を経て神経疾患を引き起こしうるのかについて、実際の神経疾患を例に学ぶ機会を得ました。

  神経発生生物学の研究とは、ヴァンヴァクター博士の言葉を借りれば、「生物学的かつ機械的な神経機能に関わる複雑な出来事の詳細を明らかにする学問」と言えるでしょう。言い換えれば、細胞生物学、発生生物学、神経科学、画像解析技術、分子生物学、遺伝学、電気生理学、そして行動生物学など様々な学問分野を内包した学問であり、見方によれば神経発生生物学自体が学際的学問ということができます。神経発生生物学は、まさにOISTが目指す「学際的な研究環境の構築」に依って立つ研究分野と言えます。

  ドンニュー・タイ・トロンさん(コネチカット大学)は、DNCへの参加によって「全く違った視点で考える事」を教わり、「行動そのものを解析することから、行動に影響を与えている要因を分子レベルで理解することに興味の対象が広がった」と述べています。トロンさん同様、多くの学生がDNCのカリキュラムを通じ、幅広いアプローチを学ぶことを楽しんでいました。

  DNC2011が、これまでにOISTが主催したコースや外部の多くの研究集会と一線を画する点は、経験豊富な研究員が学生に対し、最高水準の実験機器を使用して実践的なトレーニングの機会を提供したことです。参加者たちはハエの胚(受精した卵)や幼虫を解剖するトレーニング、ゼブラフィッシュの胚の色素染色、ハエの胚の抗体染色、様々な種類の画像解析機器を使っての標本観察などをわずか2日間のうちに「実習」しました。これは、OISTでの初めての短期集中実習型コースでした。ローラ・マリアニさん(エモリー大学)は「座学だけではなく、マイクロ・インジェクターを使った実験をすることで、様々な事を学ぶことができました。レクチャーコースは星の数ほどありますが、このコースは実践的なトレーニングを通して、様々な実験テクニックを習得する事ができる。大変貴重な機会を提供していると思います。」と述べていました。

  マリアニさんは、国際色豊かなクラス構成にも大変驚いていました。「米国における科学関係の会議の参加者はアメリカ人だらけになりがちですが、このコースは真に国際的です。」東京大学教授でDNCのオーガナイザーの一人でもある能勢聡直博士は、「今日ここに参加した人たちは研究者としてのキャリアを積み始めた大学院生とポスドク研究員です。今後、彼らの何人かが発生神経生物学の研究に進むことを願っています。私のもうひとつの期待は、もっと多くの日本人がこのコースに参加し、世界中の若い研究者との交流の機会として活用してくれることです。」

  当コースの講師の一人であるユン・ナン・ジャン博士(ハワード・ヒューズ医学研究所)は、「素晴らしいコースでした。とても良い質問をする、優秀な学生たちでしたばかりでした。私にとってもとても良い経験となりました。」と述べていました。

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トンネルギャラリーにてユニット概要に目を通す参加者
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キャンパス施設の案内を務めるロバート・バックマン理事(写真中央)
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カフェにて参加者と話す当コースの講師、東京大学の坂野仁博士(左)
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(左から)当コースで講師を務めるイエール大学のエルク・ステイン博士と、コールド・スプリング・ハーバー研究所のジョッシュ・ワング博士
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実践トレーニングのセッションにて、参加者を見守る指導員のジェニファー・バックマン博士(ハーバード大学)
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ハエの幼虫を使用したピニングやフィレータリングのデモンストレーションをする、当コースのオーガナイザーの一人、デイヴィッド・ヴァンヴァクターOIST代表研究者
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ゼブラフィッシュの取り扱いについて参加者に説明する当コースのオーガナイザーの一人、政井一郎OIST代表研究者
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コーヒーを片手に情報交換する参加者
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シーサイドハウスにて講義を行うカリフォルニア大学サンフランシスコ校のユン・ナン・ジャン博士
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ジャン博士の講義の後、同博士に質問をする参加者
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(左から)政井一郎OIST代表研究者、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のユン・ナン・ジャン博士、メリー・アン・プライスOIST代表研究者、ディパートメント・オブ・MCD・バイオロジーのデービッド・フェルドハイム博士、東京大学の能勢聡直博士、デイヴィッド・ヴァンヴァクターOIST代表研究者
 
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