G8科学技術大臣会合 「環境とエネルギー問題」 ワークショップ in 沖縄
主要国(G8)史上初めてとなる科学技術大臣会合が6月15日に沖縄で開催されるのに先立ち、会合のプレイベントのひとつとして「環境とエネルギー問題」をテーマとしたワークショップが6月14日に琉球大学で開催されました。ワークショップでは、4人のゲストスピーカーによる講演がおこなわれたほか、沖縄科学技術研究基盤整備機構の理事長、シドニー・ブレナー博士も参加して質疑応答がおこなわれました。以下は、講演と質疑応答の要旨です。なお、本ワークショップは沖縄科学技術研究基盤整備機構、琉球大学、台湾中央研究院、米国ローレンスバークレー国立研究所が主催、後援は沖縄県です。
有馬朗人博士財団法人日本科学技術振興財団会長、元文部科学大臣
独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構運営委員会共同議長
講演タイトル:「安全な原子力を使わざるを得ない。 そして税金を払ってでも新エネルギーを」 新たな代替エネルギーは、より効率的で環境負荷が少ないものでなければなりません。統合された石炭ガス化サイクルと二酸化炭素回収・蓄積技術は重要となってくるでしょう。太陽光発電と風力発電も代替エネルギーとして活用できますが、年間を通じて一定した電力供給が困難であり、安価で効率的な蓄電池の開発が必須となります。新たなクリーンエネルギーも期待されますが、その貢献度は限られたものにならざるを得ません。
代替エネルギーがより安価に、そして安定的に利用できるようになると予想される少なくとも2050年までは、現在のこの危機的状況を回避するためにも原子力発電の利用と核融合の研究開発が必須です。国際原子力機関の調査は原子力発電に関する国民の受容度が向上してきていることを示唆していますが、核燃料の供給と安全性の確保、さらには、核廃棄物の適切な管理が鍵となります。先進国においては、3R運動(Reduce = 節約、Reuse = 資源を何回も使う、Recycle = 資源の再利用)を徹底することが必須で、税金を使ってでも新エネルギー技術の開発に取り組むべきです。
ローレンスバークレー国立研究所所長
1997年ノーベル物理学賞受賞
沖縄科学技術研究基盤整備機構運営委員会委員
講演タイトル:「エネルギー問題とその解決のために私たちができること」 世界の最も深刻な懸念のひとつが国家の安全保障です。これはエネルギー問題や経済的繁栄、社会的変化、そして潜在的に危機が差迫っているといわれる気象変動にも直結しています。これらの問題の鍵をにぎるのが、持続可能なエネルギーの生産と消費です。エネルギー効率の向上と資源の保全を一層促進し、新しい技術革新を促進する国家の政策が求められています。また、現在のエネルギーの需要と供給の在り方を一新するような科学的発見も求められています。これには、カーボンニュートラル(炭素中立)なエネルギーの開発や、今より5~10倍エネルギー消費を押さえられるビルの建設、排出された二酸化炭素を地中に埋める技術、ウィンドタービンの利用、より優れた電池の開発、そして食品原料と競合する農作物に代わる、ススキなどの植物によるバイオ燃料の開発などが含まれます。
また、既存の技術を利用し、エネルギーの需供バランスを一変する科学的発見にも期待が寄せられます。それには例えば、酵母を用いてガソリンとよく似た燃料をつくる合成生物学の技術や、光合成再現のため人工膜組織を作製する研究が挙げられます。
株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所副所長
沖縄科学技術研究基盤整備機構スペシャルアドバイザー
講演タイトル:「気象変動とエネルギー問題に対する生物学的アプローチ」 エネルギーと気象変動は今日人類が直面する最も重要な問題で、これらの問題を解決するためには複数の取り組みが必要です。手品のような解決策はなく、生物学的なアプローチが大変重要となってきます。それには食品原料と競合しない方法で作られるバイオ燃料の開発と利用や、生物多様性の維持が含まれます。
一つの鍵でありながら見過ごされがちなのは、さんご礁やその他の水生生物を含む海洋領域で、これらの研究は科学の裾野を広げることを意味します。また気候変動にともない、新たな健康上の問題が増大することも懸念されており、これらの解決のためには従来にはない、よりオープンなアプローチが必要となります。
沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)においては、カーボンニュートラル(炭素中立)のキャンパス設立をめざし、代替エネルギーに関する最先端の研究をおしすすめるほか、さんご礁の保護や再生、システム生物医学の研究を通して、沖縄がカーボンニュートラルな島になるよう働きかけることで、この試みの一翼を担うことができます。
台湾中央研究院名誉会長
1986年ノーベル化学賞受賞
沖縄科学技術研究基盤整備機構運営委員会委員)
講演タイトル:「アジア太平洋諸国の自覚と協力」 私たちは過去数十年にわたり人類のグローバリゼーション化を見てきましたが、達成にいたるにはまだ道半ばです。国家間の競争は烈しくなるばかりで、「ひとつのグローバルコミュニティー」を実現するにはほど遠く、このことが原因で私たちは様々なことに悩まされています。
フロンガスによるオゾン層の破壊をはじめとする環境問題や、温室効果ガスが原因の地球温暖化の傾向は、地球規模で取り組まなければなりません。沖縄はアジア太平洋地域の真ん中に位置します。離れた島でありながら、クリーンエネルギーを獲得することができることを世界に示すには素晴らしい場所です。また、沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)の目的のひとつが、アジア太平洋地域におけるエネルギーと環境問題について研究する国際拠点となることも有り得るのです。
21世紀に人類が直面する問題を科学技術によって解決するためには、今よりも速いペースで科学技術を進展させるだけでは不十分です。現在私たちが暮らすこの「有限」で「半グローバル化した」世界において、科学技術の果たせる役割について特別な関心をはらい、国境を越えて協力することを学び、「自国の国際競争力」について懸念し続けるのではなく、「問題解決のための国際競争」について注意喚起を促していけるようでなければ、問題は解決しないのです。
講義の後は、会場に集まった聴衆から質問をうけるかたちでパネルディスカッションがおこなわれました。最も現実的に、そしてすぐにも実現できる国の環境政策は何であるかという質問に対して、チュー博士からは排出した二酸化炭素の量に比例して費用を支払うシステムを確立することが挙げられました。同博士の講義では、1974年以来カリフォルニア州の住民一人あたりのエネルギー消費が安定していることが紹介されましたが、ブレナー博士はこうした省エネ対策の重要さを強調し、消費者の意識を高めることの大切さを訴えました。またブレナー博士からは、電力消費量に応じて電力単価が累進的に上昇するような価格体系を導入することが提唱されました。
北野博士の講義では、ボルネオにおいてバイオ燃料生産用の油椰子栽培のために森林が伐採されていることが取り上げられましたが、会場からはこのようなことの予見可能性と防止策についての質問がありました。北野博士はこの問題の背景として、その地域の経済的困窮と政府の規制の有無と実効性に対する疑問点を挙げ、自然保護と経済的発展が両立するような技術移転と支援が、これらの問題の解決を必要とする国々に対して行われることの重要性を訴えました。 有馬博士に対しては、原子力発電に伴う危険性と国民感情に関しての質問が向けられましたが、同博士からは原子力技術の初めての利用法が原子力爆弾の製造ではなく、発電のためであったならば、国民の受けとめ方はもっと違っていたであろうと指摘しました。そして、日本では地震の時に原子炉が自動停止するなど、最近では原子力発電の安全性もきちんと確保されることが証明されるようになり、国民も徐々に好意的に受けとめているようだと話がありました。 最後にパネリストたちは、地球温暖化とエネルギー問題に関して、全地球規模の協調と、それを解決する科学技術を進展させることの必要性について意見を一にしました。
シドニー・ブレナー博士による挨拶
講演に聴き入る学生たち
パネリストたち
聴衆からの質問