OISTの研究者らが科学技術振興機構の創発的研究支援事業に採択
2021年2月、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(FOREST)採択者が発表され、OISTの山田洋輔博士、小宮怜奈博士、嘉部量太准教授の研究課題が採択されました。
JSTが運営する同事業は、日本の研究機関に所属する若手研究者による、破壊的かつ学際的な研究を促進することを目的としています。
この事業は、長期的な支援を行う点が特徴です。研究期間は、通常は7年間となっていますが、最長で10年間まで支援を受けられる可能性があり、1つのフェーズに分かれています。研究者には、フェーズ1の3年間で最大2,000万円、フェーズ2の4年間で最大3,000万円までが追加で支給されます。
研究期間中、参加者はプログラムオフィサーである専門家の指導を受け、参加者同士の融合と協力が促されます。
山田洋輔博士
同事業の第一回公募に採択された研究者の一人が、御手洗哲司准教授が率いる海洋生態物理学ユニットのポスドク研究員である山田洋輔博士です。
山田博士の研究は、細菌と、海洋炭素循環におけるその役割に焦点を当てています。
「細菌は、肉眼で見ることができないほど小さいですが、海洋で最も多く存在する生物です。細菌は、海洋の植物プランクトンが固定する炭素の約半分を利用しているので、炭素循環を理解する上で非常に重要な生物です」と山田博士は説明します。
細菌が炭素を取り込む方法の一つに、植物プランクトン由来の有機物や細胞の残骸など、バクテリアの表面に付着する海洋中の小さな有機粒子から取り込む方法があります。
創発的研究支援事業の最初の3年間は、沖縄のさまざまな場所から細菌とナノ粒子の試料を集め、最先端の顕微鏡を使用して細菌の表面を明らかにしていきます。
その目的は、さまざまな細菌の表面特性が、ナノ粒子の付着しやすさにどのように影響するかを理解することです。また、水素イオン濃度指数(pH)、塩分、温度などの海洋条件の変化が、ナノ粒子の付着にどのような影響を与えるかをモデル化していきます。
「気候変動に伴い、海洋の温暖化と酸性化が進んでいます。このような変化がナノ粒子の付着にどのような影響を与えるかを予測するために、これらのモデルが重要です」と山田博士は説明しています。
フェーズ2では、細菌に付着するナノ粒子の種類によって、どのくらいの量の炭素が取り込まれるかを定量化し、ナノ粒子の付着量が変化することによって炭素の再生利用全体にどのような影響がもたらされるかを明らかにする予定です。
「この助成金を頂くことを、とても嬉しく思います。大きな責任を担うことになるので、成功させることがとても重要です」と、山田博士はコメントしています。
小宮怜奈博士
サイエンス・テクノロジー・グループのアソシエイトである小宮怜奈博士は、米の生産性向上に関する研究が採択されました。
小宮博士にとって、この研究は、持続可能な開発目標(SDGs)のうち「貧困をなくそう」と「飢餓をゼロに」という目標の実現に貢献できる可能性を秘めた、思い入れの深いものです。「沖縄では食糧不足が、特に子どものいる家庭で深刻な問題となっているので、この研究は私にとって非常に重要です。このような長期的な助成金を得られたことは素晴らしいことです。研究を発展させ、より野心的で挑戦的な研究課題に取り組む自由を与えてくれます。」
小宮博士は、イネの生殖におけるノンコーディングRNAの役割を研究しています。ノンコーディングRNAはDNAから作られた分子で、タンパク質をコードしません。
これまでに研究者らは、何千ものノンコーディングRNA分子を特定してきましたが、植物の生殖システムの発達にどのように役立つのか、その正確な機能はまだよくわかっていません。
各ノンコーディングRNAの機能を解明することが、同事業のフェーズ1における小宮博士の目標です。
最終的には、ノンコーディングRNAをカスタマイズして、高温・乾燥などの厳しい環境下でもイネが適応してうまく繁殖できるようなシステムを作ることが目標だそうです。
「米は世界の大部分の人々の主食となっているため、効果的に繁殖可能である必要がある、本当に重要な資源です。気候変動は環境条件に大きな影響を与えるため、作物の安定した収穫量を維持するためには適応が重要です」と小宮博士は述べています。
嘉部量太准教授
三人目の採択者は、OISTで有機光エレクトロニクスユニットを率いる嘉部量太准教授です。
嘉部准教授の研究は、有機材料における電子と光の相互作用を調べるものです。有機材料が光子を吸収すると、そのエネルギーによって、材料内の電子がより高いエネルギー準位に移動し、励起状態になります。通常、材料の励起状態は1000万分の1秒しか持続しない不安定な状態です。
電子が励起されていない基底状態に戻ると、材料は光子を放出してエネルギーを放出します。しかし、嘉部准教授は、2つの有機分子を用いて、エネルギーを長期間、あるいは無期限に材料内に貯蔵する方法を研究しています。
「本研究の主な用途の1つは、非常口の標識などの蓄光材料を作ることです。また、光検出装置やバイオイメージング装置など、新しいタイプのセンサーを作るのにも利用できます」と嘉部准教授は述べています。
これらの特性は、無機材料では知られていますが、有機材料を用いることで、より安価で環境に優しい解決策を提供することができる、と嘉部教授は説明します。また、有機材料は、液体や溶液の状態にすることができるので、新しい用途を開拓することもできます。
「今回の採択を大変光栄に思います。プログラムオフィサーである伊丹健一郎教授(名古屋大学)とのディスカッションや、将来、他大学の研究者と共同研究を行うことを楽しみにしています」と嘉部准教授は述べています。