波力発電機を沖縄県内の海岸線に設置

低コストの再生可能エネルギーの実現を目指して新たな「ダクト型」発電機の実証試験が始まりました。

    海の波から得るエネルギーで世界の電力需要を満たす。波力エネルギーを充分に活かすことができれば、そんなことが可能になるかもしれません。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームが沖縄県内に新型波力発電機を設置しました。これまでの発電機の6倍のエネルギーを利用でき、より多くの電力を生み出す新型モデルの設置により、波力発電の実用化に一歩近づきました。

   OIST波力発電プロジェクトにおける最新の取り組みが、この「ダクト型」波力発電機(WEC)です。新型モデルは、タービンの前に取り付けたダクトが導波路となり、水流を一点に集中させ増速させます。ダクトによって一つの波からより多くのエネルギーを集めることが可能になるのです。

   モルディブでの実証実験の成功を受けて、今回、新型タービンがOISTから少し北に位置する恩納村瀬良垣に設置されました。今後、タービンによる発電量と台風に耐えうるかをモニタリングしていきます。

   プロジェクトを率いるOISTの新竹積教授は次のように説明します。「ダクトを取り付けたことで、これまでの波力発電機より多くの波力エネルギーを電力に変換することが可能になりました。電気を貯めておくことができる電気二重層コンデンサにタービンを取り付けることで、蓄電も可能になりました。」

 

新型波力発電機を設置する沖縄県恩納村瀬良垣にて海を見つめる新竹積教授。

発電機の設置方法

   タービンを用いた発電方法は、ほぼすべての電力ですでに利用されています。通常は、化石燃料を燃やして発生させた蒸気でタービンを回し発電します。波力は化石燃料の代替となりうる持続可能なエネルギーですが、タービンを波の力でどうやって回すかの技術開発がこれまでは課題でした。

   技術開発が困難である理由の一つとして、波は水流と共に移動せず、局所的な水の動きから発生するということがあります。大勢の観客で埋まったスタジアムで起こるウェーブと同じように、水粒子は上下に動きます。観客が同じ位置で動き続けるように、水粒子のこの局地的な動きが、普段私たちが目にする波の正体なのです。

   波は砕けるときに水流が速くなり、タービンを数秒間だけ回します。タービンの前にダクトを取り付けると波が砕けることを防ぐことができ、より多くの海水がより速くタービンに流れ込むようになってエネルギーを一点に集めることができます。これにより一つ一つの波から得られるエネルギーが大きくなり、発電量が増加します。

 

タービン、ダクト、支えのコンクリートブロックを船で曳航して沿岸に運ぶ。その後、潮が引いて波力発電機が着底するのを待った。

   波力発電機の設置作業は容易ではありませんでした。まず、タービンとダクトを巨大なコンクリートブロックに取り付け、クレーンで吊り上げ海に投入します。浮きを使って浮かせた状態のまま設置場所まで船で曳航して干潮を待ちます。潮が引いてコンクリートブロックが着底したら、事前に穴をあけておいたサンゴ石灰岩にボルトで固定しました。

   設置が終了すると、いよいよ波の力でタービンが回り始めます。ブレードが一回転するごとに電気が生まれ、接続された電気二重層コンデンサに取り込まれます。この装置は電池と同じように、電気を貯めておくことができます。

   エネルギー変換と蓄電の問題を解決した新竹教授が、次に取り組まなければならない課題は沖縄の気候です。まもなくやってくる台風シーズンに、ダクト型発電機が耐えられるかどうかは現時点ではわかりません。しかし、発電機は台風のような極端な気象現象にも耐え、通常以上のエネルギーを変換できるだろう、と新竹教授は自信をのぞかせます。

 

ボートで運んだ波力発電機をサンゴ石灰岩に固定する。

   プロジェクトチームは、波力発電機の試作機とモルディブでの実証実験の次の段階として、ダクト型波力発電機を開発、設置しました。新竹教授は本プロジェクトを航空機の開発に例えてこう説明しています。波力発電機は「ライト兄弟の時代」を経て、今回の新型モデルは「近代的なジェットエンジン」のようだと。教授は波力発電機が今後も進化を続けると期待しています。

   本テクノロジーの商業化に向けては課題も多くありますが、化石燃料の代わりとなるクリーンで低コスト、持続可能な波力エネルギーの利用を実現するという目標に向けて、新竹教授は情熱を注ぎ続けています。

   「今日、地球上にあるエネルギーのうち、人間が活用できているのはごく一部です。気候変動が人類をコントロールし始める前に、人類が気候変動にうまく対処していこうとするのであれば、エネルギー活用のあり方を変えていかなければなりません。」

 

OIST波力発電プロジェクトが開発した波力発電機が、波の力を安定した電力に変えます。

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