STRINGS 2018:OIST、超弦理論の国際会議を開催
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、2018年6月25日から29日まで、超弦理論に関する国際会議 Strings 2018 を主催しました。世界各地で毎年開催されているStringsですが、日本では今回が2回目で、沖縄では初めての開催となりました。学生や若手研究者たちが基礎物理学の分野における名だたる研究者や第一人者たちと交流し、研究の最前線にふれることができるグローバルな学びの場となる今回の会議には世界中から400名以上の参加者が集まり、これまで開催されていた国際会議Stringsとしては最大規模となるものでした。
超弦理論は、自然界の四つの力(電磁気力、重力、強い力、弱い力)の統合を試みる、基礎物理学では最も有望視されている理論の1つです。すべての粒子は振動しながら空間内を伝播し、互いに作用する微小な弦であるものとし、ブラックホール物理学、初期宇宙に関する理論、原子物理学、および凝縮系物理学など、広範囲にわたる数々の疑問に取り組もうとしている理論です。
Strings 2018はOISTのピーター・グルース学長による挨拶で開幕しました。学長は、「ここに集まった皆様は超弦理論の研究を将来にわたって担う優れた科学者の方々ばかりです。 この度、これほど多くの優秀な科学者の皆様を本学にお迎えできることを大変誇りに思います」と、述べました。
2018年はStringsにとって、ヴェネツィアーノ教授が発表した共鳴モデル(ヴェネツィアーノ振幅)と弦理論の誕生50周年を記念する特別な年です。 弦理論の先駆者的な存在の1人でもあるガブリエーレ・ヴェネツィアーノ教授や、ノーベル賞受賞者デイビッド・グロス教授のような著名な科学者たちも多く出席しました。 他には、この分野に大きな貢献をしたマイケル・グリーン教授やジョン・シュワルツ教授、米谷民明教授なども出席しました。会議の議長を務められた カリフォルニア工科大学の大栗博司教授はStrings 2018を「アイデアの自由市場」と称し、若い新進気鋭の科学者たちが著名な科学者と出会い、交流する機会を提供することを目指したと語ります。
今年のStringsはこれまでとは異なり、特別に設立された委員会によって講演者を選出しました。 世界中の大学や研究機関から、超弦理論の分野で著名な業績をあげている若手からベテランまでの幅広い科学者が選出され、講演者として招待されました。プリンストン高等研究所からのフアン・マルダセナ教授もその一人であり、彼はワームホールに関する新しい研究成果について講演しました。ワームホールとはアインシュタイン方程式に基づく概念です。 それは、空間の異なる地点に両端があるトンネルとして描写することができます。 このワームホール解は構築が難しく、構築できないとする定理も存在するくらいです。今回、フアン・マルダセナ教授が発表した新しい成果は参加者を驚かせ、会場でも多くの有益な議論が繰り広げられました。 「今回の会議はすばらしく、面白い話もたくさんありました」と、教授は熱く語ってくれました。
また、参加者全員が楽しみにしていた文化イベントも期間中に開催されました。沖縄がかつて琉球国であった頃の文化遺産についての講演や、地元の著名な伝統舞踊楽団などにより琉球舞踊などが披露されました。沖縄大学の佐藤文彦氏が琉球王の肖像画から見た琉球王国の歴史を簡単に紹介した後、野村流伝統音楽協会による若衆こてい節、獅子舞が躍られ、特にOISTがある恩納村谷茶の民俗舞踊である谷茶前の伝統舞踊は観客を魅了しました。
さらに、今年亡くなられたピーター・フロイント教授(1936~2018年)、スティーヴン・ホーキング教授(1942〜2018年)、ジョセフ・ポルチンスキー教授(1954~2018年)の3名の著名な理論物理学者を記念すべく、特別な追悼講演も開催されました。 フロイント教授は弦理論の発展を推進させた二つの要素の双対性を提案した先駆的な科学者でした。 講演に立ったシカゴ大学のジェフリー・ハーヴェィ教授は、 彼らが共に過ごしていた時代の思い出などを参加者と共有しました。
また、今年3月に報じられたスティーヴン・ホーキング教授の訃報は全世界を驚かせました。ケンブリッジ大学でホーキング教授と一緒に過ごしたマイケル・グリーン教授はその時を思い出しながら、「彼は皆の予想を超えて見事に生き抜きました」と語りました。続いて ハーバード大学のアンドリュー・ストロミンガー教授は、障害をものともせずに研究をし続けたホーキング教授は「実に素晴らしい人物」であったと思い出を語りました。
デイビッド・グロス教授は、ジョセフ・ポルチンスキー教授との交友からの個人的な絆について感動的なスピーチを行い、彼の謙虚さを讃えつつ、素晴らしい同僚だったと述べました。ポルチンスキー教授は、Dブレーンの発見と1998年に出版された弦理論の教科書の執筆などで知られており、現在も世界中の学生や教師が教材として使用しています。
1週間続いた国際会議は、6月30 日に行われた映画「9次元からきた男」の上映と大栗博司教授と大阪大学の橋本幸士教授のお二人の講演と対談によって締めくくられました。大栗教授は、 「今回の国際会議を開催するにあたり、多大なる貢献と手厚いサポートを提供していただいたOISTに感謝しています。世界各地から来た参加者が、この素晴らしい大学を実際に目にして、良い体験を得られたことを願っております」と語りました。