シロアリ―生き残りをかけた同性カップル誕生の秘訣
繁殖期のシロアリでは、異性カップルに加え、同性カップルも誕生します。しかし、そのような同性カップルでは、片方が異性のような行動をとるため、シロアリの求愛行動の観察からそれが異性間で行われているのか同性間で行われているのかを見分けることは困難です。この度、シロアリが、同性カップルにおいて求愛行動中に性役割を柔軟に変化させており、そのことが同性ペア行動の進化において重要であることが研究で明らかになり、11月8日発表の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表されました。
国内に生息するヤマトシロアリを対象とした本研究は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームとセントアンドリュース大学(イギリス)が共同で行ったもので、研究ではヤマトシロアリが求愛行動中に性役割を変える能力を遠い祖先から引き継いだものであることも明らかになりました。
本研究の筆頭著者であり、OIST進化ゲノミクスユニットのリサーチフェローである水元惟暁博士は、次のように述べています。「これまで動物の同性間性行動は、科学者にとっても謎でした。有力な説のひとつでは、動物が交尾を急ぐあまり、相手の性別を確認せずに誤って起こるものであると考えられています。しかし、少なくともシロアリに関して言うと、同性間で起こる求愛行動には意図的な行動の変化を要することが明らかになりました。つまり、偶然起こることではないのです。」
ヤマトシロアリは、年に一度の短い期間に大急ぎで求愛行動と繁殖ペア形成を行います。翅(はね)を生やした数千匹のシロアリの群れが巣から空中に飛び立ち、地上に降り立つと翅を脱ぎ捨て、必死になってパートナーを探します。カップルになったシロアリは、新しいコロニーを形成するために巣作りをする場所を探し始めますが、このときに「タンデム歩行」と呼ばれる求愛行動を行いながら移動します。
水元博士は、次のように説明しています。「タンデム歩行では、オスとメスがそれぞれ異なる行動を取り、非常に息の合った動きをします。メスは常に前を歩き、オスはその後ろをついていきます。カップルがはぐれてしまうと、メスが立ち止まってオスがパートナーを探します。」
しかし、中には異性のパートナーを見つけられないシロアリもいます。その場合、シロアリは単独でいるよりも、同性のパートナーを見つけて巣を作ります。
水元博士は、次のように述べています。「シロアリは、互いにグルーミングをして病原体を取り除くことで健康を保っています。また、メス同士のカップルは単為生殖(受精なしで子どもを作る)により繁殖することができ、オス同士のカップルは後に他の巣に侵入してメスと交尾することもできます。異性のパートナー探しに時間をかけ過ぎると、捕食されるリスクも高まります。つまり、同性のパートナーを見つけることは、生き残るための戦略であり、シロアリはそうした状況の中で最善の策を選んでいるのです。」
本研究では、異性カップルで見られるタンデム歩行中の性役割が、同性カップルでも見られるかどうかに着目しました。
まず、雌雄混合の集団と同性のそれぞれの集団で、シロアリがどのようにタンデム歩行のパートナーを見つけるかを観察しました。その結果、雌雄混合の集団とオス同士の集団では、メス同士の集団よりもタンデムパートナーができやすいことが明らかになりました。しかし、一旦パートナーを組んだカップルは、どちらの組合せでも同等に安定した関係を維持し、タンデム歩行を行う速度と持続時間も同程度でした。
その後、研究チームはシロアリのオスとメス、メス同士、オス同士のカップルをそれぞれシャーレに移しました。そして、タンデム歩行で前を歩いているシロアリと後をついているシロアリのどちらか一方を取り出し、もう一方がどのような反応を示すかを観察しました。
その結果、パートナーとはぐれたシロアリは、同性カップルも異性カップルと同じような行動を示すことが明らかになりました。メス同士のカップルでは、タンデムで後ろを歩くシロアリの方がパートナーを必死に探す様子が見られました。これは、典型的なオスの行動特性です。一方、オス同士のカップルでは、タンデムで前を歩くオスが異性カップルのメスと同様に立ち止まりました。これらの行動により、同性カップルも異性カップルと同様にパートナーに再会することができました。
さらに研究チームは、同性カップルとなったシロアリが、性役割を変えられなかった場合にどうなるかをコンピューターでシミュレーションしました。メス同士のカップルでは両方のメスが立ち止まり、オス同士のカップルでは両方のオスがパートナーを探すシミュレーションを行ったところ、パートナーと再会する可能性が低下する、あるいは再会に長い時間を要するという結果になりました。
シロアリは、オスもメスも両方の性別の行動をとることができることが明らかになった今、次に明らかにすべきは、この性別にとらわれない柔軟性がどのようにして生まれたのか、という疑問です。
研究チームはこの疑問を解明するため、膨大な量の科学研究記録をさかのぼり、求愛行動時にタンデム歩行が見られるかどうか、その場合オスとメスのどちらが前を歩いているのかをできるだけ多くの種のシロアリについて調査しました。
その結果、ヤマトシロアリが属する新等翅目のシロアリは、すべてメスがタンデム歩行で前を歩き、遠縁の種ではオスとメスのどちらも前を歩くことがあるということが明らかになりました。
水元博士は、次のように締めくくっています。「このことが示しているのは、現存するシロアリの祖先は、オスとメスの両方がタンデム歩行で前を歩いたり後をつけたりできる能力を持っていた可能性があるということです。ヤマトシロアリでも繁殖のためにオスとメスが行動を変えることができるのは、祖先からその能力を引き継いでいるからと考えられます。」
論文詳細情報:
論文タイトル: Ancestral sex-role plasticity facilitates the evolution of same-sex sexual behavior
発表先: PNAS
著者: Nobuaki Mizumoto, Thomas Bourguignon, Nathan W. Bailey
発表日: 2022年11月8日
DOI: 10.1073/pnas.2212401119