ベン・L・フェリンハ教授がOIST理事に就任 「常に夢を追いかけ、失敗を恐れないで」
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、ベン・L・フェリンハ教授を理事会に迎えました。理事会は、OISTにおける事業の運営を戦略的に監督する組織で、世界的に著名な科学者やビジネスリーダー等で構成されています。
2021年7月に理事に就任したフェリンハ教授は、フローニンゲン大学ヤコブス・ファント・ホッフの分子科学特別教授であり、ノーベル賞受賞者でもあります。石油・ガスの多国籍企業であるロイヤル・ダッチ・シェル社とフローニンゲン大学での勤務経験を持つフェリンハ教授が加わったことで、理事会に、産業界と学術界の双方に関する豊富な専門知識を持ち込んでいただけることになります。
フェリンハ教授は、次のように述べています。「OIST理事会の一員になることができ、大変うれしく思います。OISTは、非常に大きな可能性を秘めた魅力的な研究機関だと思いますし、これまでに達成したことに感銘を受けています。」
オランダの小さな村に生まれたフェリンハ教授は、幼少期に父親の農場を手伝う中で、自然に親しみながら育ちました。
フェリンハ教授は、どのように科学の道を目指すようになったのかについて、次のように語っています。「最初は農家になりたかったのですが、父がとても賢い人で、『まずは勉強しろ』と言われました。子供の頃は科学者になろうと思ったことは一度もありませんでしたが、いつも熱心に質問をし、新しいものを発見することに夢中でした。そして学校や大学では、私に挑戦を投げかけてくれる素晴らしい先生方や教授がいて、それが本当に火をつけてくれたのです。」
フェリンハ教授は、フローニンゲン大学で化学を専攻した後、修士課程および博士課程で有機化学の研究を行いました。その後、学界を離れ、オランダのロイヤル・ダッチ・シェル社の研究所に6年半勤務しました。そのうち1年半は英国のシェル・バイオサイエンスセンターに勤務し、基礎科学からイノベーション、そして新商品に至るまで、技術移転のプロセス全体にわたる産業界の視点を得ました。
フェリンハ教授は、OISTの理事会で大学と産業界の連携を促進する役割を果たすことに意欲的で、OISTで行われる最先端の基礎科学研究に基づいて新興企業や既存企業が製品や技術を開発する構想を描いています。
「産業界と学術界が戦略的に協力し、それぞれのミッションを通じて相互に補完し合うことが重要です。」(フェリンハ教授)
フェリンハ教授は、1984年に母校のフローニンゲン大学から声をかけられて産業界を離れ、化学の講師として勤務した後、1987年に教授に就任しました。研究目標は、小さな分子機械のような特定の役割を果たす分子を設計・構築することでした。
1990年代には、2つの異なる安定状態の間を行き来できる分子、いわゆる「分子スイッチ」を開発し、これが情報の保存に役立ちました。1999年には、光のエネルギーで連続的に回転する分子モーターを開発しました。その後10年間、フェリンハ研究室では液晶を使ってモーターの動きを増幅し、肉眼で見えるようにしたり、「ナノカー」を作ったりと、さまざまな課題に取り組みました。これらのモーターはいつの日か、ドラッグデリバリー(薬物送達)やスマート材料など、さまざまな用途に使われるようになるでしょう。
この小型モーターの先駆的な研究が評価され、フェリンハ教授は2016年にノーベル化学賞を受賞しました。
「信じ難いことです。これらのスイッチやモーターは、私が修士課程や博士課程の学生時代に最初に作った分子が基になっています。科学の研究が、長期にわたるプロセスであるということがここに示されています。」とフェリンハ教授は述べています。
また、研究者としてのキャリアで成功するためのアドバイスとして、「科学への情熱と新しいものを発見する喜び」を持つことの重要性を強調しています。
さらに、次のように続けています。「私の研究は何十年もかかりました。それは、何度も失敗を繰り返したからです。でも私は研究を続けてきました。OISTの研究者や学生へアドバイスしたいことは、常に夢を追いかけ、失敗を恐れないということです。」
フェリンハ教授は、刺激的で学際的かつ国際的な環境の中で、同僚から挑戦を受けることの重要性も付け加えました。
「科学は非常に国際的です。私たちには国境はありません。フロンティアを越えているのです。科学には非常に大きな挑戦や課題があり、それによって科学を前進させることができます。しかしそれは、単独で行うことはできません。OISTにはこのようなユニークで国際的な環境があり、世界各地から優秀な人材が集まっています。このような協力的な雰囲気があることによって、OISTには非常に素晴らしい未来が約束されていると思います。」