重力に屈するか否か
マグネットボールは、物理学の分野において、数多くの根本的な現象を探求するための魅力的な手段です。鎖やもっと複雑な構造を手で簡単に組み立てることができたり、例えば紙のように、伸び縮みしない性質のものが一定の負荷条件のもとでくしゃくしゃになるといった特性をモデル化するのにも使うことができます。
垂直に積み上げたマグネットボールが安定した状態でいるためには、ある条件が必要となります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のエリオット・フリード教授とヨハネス・シュンケ博士は、どれくらいの長さまでマグネットボールの鎖が倒れず垂直にバランスを保てるのかについて調べました。これは、マグネットボールの鎖の安定性に関連する、単純ながらも重要な現象です。実験のデータと併せて理論と数学的解析を用い、異なる条件下においてどの段階で鎖が安定性を失うのかという臨界値を測定しました。
Proceedings of the Royal Society of London Series A に掲載された本研究成果は、大型の建築デザインに使われる非伸縮素材の安定性に関して見識をもたらし、コンクリート製の発電所の煙突からロケットの外側の構造部分まで、多くの建築物に応用されるでしょう。
研究者たちは、まず初めに、実験は、直径5mm、重さ0.5g、磁束密度1.19テスラ(T)の大きさのマグネットボールを使い、土台に固定された一連の鎖を検証することから始めました。鎖は、マグネットボール9個では安定を保ちますが、10個になると座屈が起こります。
次に、研究チームは2つの鎖で実験しました。1つは地面に接している鎖、もう1つはその鎖から一定の距離をおいて、上からぶら下がっている状態の鎖です。このように上方の鎖と下方の鎖は磁石によりお互いに引き合う状態で磁場が一直線になったとき、上方の鎖が下方にある10個のマグネットボールを安定化させました。言い換えれば、上方に鎖が存在することで土台に接している固定された鎖を安定した状態で保っているのです。
「下側にあるマグネットボールの数が増えるにつれて、下方の鎖を安定し続けるために、上下の鎖の間の距離が狭まっていかなければなりません。」と、シュンケ博士が続けます。
下側の鎖が固定されていなくても、上にある鎖との磁力の相互作用が安定性を生み出します。これは固定されていない単独の鎖では実現できない状態です。ただ、この場合、上下の鎖の距離が短かすぎれば、固定されていない下の鎖が持ち上げられて、上の鎖に引きつけられることになってしまいます。
最後の実験では、研究者たちは上方の鎖のマグネットボールを逆方向にし、上方の鎖の磁場の方向を下方の固定された鎖と逆向きにしました。これら2本の鎖の間の反発作用の下では、下方の鎖は8個のマグネットボールで安定しました。すなわち、(最初の実験で明らかになった)土台に固定された一連の鎖よりマグネットボールが一つ少なく、(二つ目の実験で示された)上方の鎖に引き寄せられ安定した、固定された下方の鎖より二つ少ないマグネットボールの数で安定を保つことが立証できました。
OISTソフトマター数理ユニットを主宰するエリオット・フリード教授は、「磁気鎖の安定性はマグネットボールの数、上下の鎖の間の距離、そして重力に対する磁力の強さで決定されるということを発見しました。」と解説します。
シュンケ博士研究員は、「これは、おもちゃの磁石で遊んでいるものと思われるかもしれませんが、マグネットボールの安定性をきわめて正確に説明できる非自明な数学を用いることにより、この問題に取り組みました。」と語りました。
これらの発見は、円環が積み重なる円柱管のように、より複雑なマグネットボールの構造について研究を進めるための土台となります。もし、円環を四角形に積み上げ、ボールがそれぞれ隣り合う4つのボールだけと接している状態であれば、様々に変形してしまいます。
四角形に積み上げられた円環と比べると、各ボールが6つの隣接ボールとつながっている六角形状の輪では安定性が増します。この方法でマグネットの球と球の間をつないでおくことで、拡張や収縮を防ぐことが可能になります。このような構造により、紙のような伸び縮みのない材料をより深く理解するためのモデル構築ができるようになります。
「次のステップは、マグネットボールの円柱管を使い、よりダイナミックなシミュレーションを実行することです。そこから、どの臨界値に達したときに構造が安定性を失うのかを測定することです。」と、シュンケ博士は今後の研究に期待を寄せました。
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