沖縄にとってOISTとは?〜美しい自然環境のために科学者ができること〜

最先端のゲノミクス、野生生物のモニタリングなどを通じて、沖縄の素晴らしい自然環境保護に積極的に参画

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)設立10周年の節目にあたり、学長のピーター・グルース博士が、経済・教育・環境・健康の4つのテーマにおけるOISTと沖縄社会とのつながりについて振り返ります。今回は「環境」がテーマです。

OISTの学長兼CEOのピーター・グルース博士は、沖縄の素晴らしい自然環境を守るべく、この10年間でOISTの研究者たちが取り組んできた、最先端のゲノミクス研究、野生動物のモニタリングシステム、害虫を見極めるための同定研修などについて紹介しました。その上で、「害を及ぼす可能性のある影響を正しく理解し、それを軽減させるためには、まだまだやるべきことがたくさんあります」と言います。

日本で唯一の亜熱帯地域に位置する沖縄県は、特有の自然環境を誇る場所です。しかし、人間の様々な活動から生じる要因により、その環境変化が懸念されています。「沖縄の美しい大地と海、この両方の自然環境を保持・改善するためには、今後の10年間が重要な時期となります。」(グルース学長) 

「沖縄には多様な動植物が生息していますが、これは世界的に見ても固有な環境です。私たちは科学者として、沖縄の生態系に関する情報を集め、気候変動や廃棄物などの影響から発生する問題の解決に協力するなどの対策に取り組んでいます。」(グルース学長) 

観光客にとって魅力的なサンゴ礁は、魚やエビなど多くの海の生物の棲みかとなるため、海洋生態系にとって、とても重要な存在です。海の食物連鎖の大部分は、サンゴ礁に棲む生物が占めており、ひいては私たちもサンゴ礁を食料源としています。昨今の海水温度上昇により、熱帯魚が生存可能な限界水温に達しているとみられています。海水温が上昇し続けると、サンゴの健康を維持することができず、それによりサンゴ礁の環境が劣化すると、魚が棲まなくなったり死んでしまう可能性があります。サンゴ礁の生態系が失われることは大きな問題であり、元に戻すことはとできません。経済や文化など、あらゆる面で沖縄に影響を与えることになります。

沖縄周辺のサンゴ礁の保護と回復のために、OISTの海洋科学チームは、あらゆる視点からサンゴ礁を理解しようと努めています。サンゴやサンゴ礁に棲む生物の分子組成の解明に力を注いでおり、この研究により、サンゴ礁の現状や、もし水温があと1度上がれば何が起こるのかが明らかになる可能性があります。また、高温環境に強いサンゴの種類も特定されており、こうした研究が将来のサンゴ礁の姿を変えることができるかもしれません。

「海の生態系の中にいるサンゴ、魚類、無脊椎動物などを総合的に理解する必要があります。気候変動はもはや避けられません。私たちはそれに備える必要があります。気温がさらに1度上昇しても、サンゴが生存できるような対策を提案できるのではないかと考えています。」

さらに、OISTの研究チームは、国際CO2・ナチュラルアナログネットワーク(ICONA)の一員でもあります。この国際ネットワークの目的は、火山、潮汐ラグーン、海底熱水噴出孔など平均濃度以上のCO2を周囲に排出し、将来の海洋に似た環境を作り出している場所を調査することです。これらの地域で見られる海洋生物群集を研究することで、沖縄周辺やその他の地域の海の将来についてより深く知ることができると期待されます。

陸上では、生態学チームが、地元の大学や高校、博物館、政府機関と協力して、「OKEON美ら森プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトでは、沖縄本島に20以上のモニタリングサイトを設置し、そこに棲息する動物の活動を記録しています。OKEON美ら森プロジェクトの主な目的は、沖縄の陸域環境とその変化を理解し、絶滅危惧種を保護すること、そしてその知見を沖縄の地域社会と共有することです。また、このモニタリングシステムでは、沖縄の生物多様性に深刻な影響を与えかねない外来種の捕獲も行います。

グルース博士が特に懸念しているのはヒアリです。人体や畜農業に被害を及ぼす可能性のあるヒアリは、沖縄にはまだ定着していませんが、日本本土の国際港では頻繁に確認されています。もし沖縄県内にヒアリが侵入した場合、県内の他の地域へ拡散しないようにすぐに対処する必要があります。そのような事態に備えて、OISTの研究チームは、行政機関と対策を行うための体制を整えてきました。その一環として、研究者によるヒアリの同定研修を開催し、保健所、港湾、空港、地方自治体の職員が、在来種とヒアリを識別する方法を伝えています。

また、OISTのスタッフや学生は、ビーチクリーニング活動を定期的に実施したり、地元のカクレクマノミの個体数を維持・回復させるためのエコツーリズムに協力しています。さらに、雨によって海に流出する赤土の量を軽減するために、恩納村が工夫を凝らして取り組んでいる赤土対策に対し、ミツバチの研究や、グリーンベルトとなる植物の植え付け活動などを通して協力しています。

「OISTで働く人々は、広い範囲で沖縄の生態系を理解したり、沖縄の環境のためになることをしたいと考えています。最近の例としては、今年8月に、沖縄県を始めとする他の6つの機関と、本島北部と西表島にあるユネスコ世界自然遺産登録地の保全管理について協力・連携する協定を締結しました。この協定の下、保全管理の知見を活用し担い手となる若い世代や地域の人材の育成を図っていくことを目指します。私たちは、地元沖縄の環境に脅威を及ぼす課題から地域を守る一端を担いたいと考えています。」

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