2017年、ピーター・グルース博士OIST学長に就任
ドイツのハイデルベルクにあるドイツがん研究センターで博士候補として科学者としてのキャリアをスタートし、腫瘍ウイルスの研究を行う。その後アメリカ国立衛生研究所(NIH)に移り、研究所の「科学的疑問を提示する自由、研究を追求する可能性、アイデアと好奇心を組み合わせる雰囲気」に感銘を受ける。「そして何より、アメリカの研究者たちは、研究では自分自身の能力以外に、決して限界があると思ってはならないという姿勢を教えてくれた。」
NIHでは、遺伝子活性化を増幅する細胞内の「エンハンサー」を発見。 このエンハンサーが、組織に応じて非常に特殊な方法で増幅させることを初めて明らかにした研究となった。
1982年にドイツに帰国、ハイデルベルク大学の教員に任命される。 1986年、ゲッティンゲンにあるマックス・プランク生物物理化学研究所分子細胞生物学部の学術会員および部長に就任。ここでの最も重要な発見の一つは、遺伝子制御の研究において突破口を開いた、Pax6遺伝子の機能の解明である。Pax6遺伝子に欠陥がある場合、マウスもヒトも目の機能が失われる。同じ原則に基づき、研究グループは影響を及ぼす別の遺伝子、Pax4を発見。この遺伝子が欠如すると、哺乳類の胚はインスリンを産生する膵臓の細胞である機能的β細胞を生成できない。これを基に幹細胞をインスリン産生細胞に分化させることにも成功した。
これまでに500本以上の論文を発表し、同分野で最も論文生産性の高い科学者にランクされている。ドイツ研究振興協会ライプニッツ賞、Louis Jeantet医学賞、テクノロジー&イノベーションドイツ連邦大統領賞、ニーダーザクセン州賞など、科学的業績に対して数々の賞を受賞。
2002年にはマックス・プランク学術振興協会会長に就任。ドイツ連邦政府および州政府からハイトラスト・ファンディングの提供を受け、加齢の生物学、光と経験美学の物理学など、革新的なテーマに取り組む8つのマックス・プランク研究所の立ち上げに成功。また、米国フロリダ州とルクセンブルクの海外2か所にマックス・プランク研究所を設立。2006年には、マックス・プランク学術振興協会の研究および科学者を支援するマックス・プランク財団を創設した。
教育研究の国際化のパイオニアであるグルース博士は、マックス・プランク学術振興協会の海外での存在感を高めた。ブエノスアイレスと上海にマックス・プランク・パートナー研究所を開設。また主要研究機関と協力して、世界中に14のマックス・プランク・センターを設立。マックス・プランク学術振興協会の世界に対するコミットメントは、2013年のアストゥリアス皇太子賞国際協力部門の受賞により評価された。
グルース博士は、技術移転およびイノベーションのリーダーである。マックス・プランク・イノベーションを強化、各マックス・プランク研究所の発明を産業界へ橋渡しし、科学者の特許取得と起業を支援した。ドイツの4都市でインキュベーターが設立され、研究結果の事業化に成功した。バイオ製薬会社を共同設立し、シーメンス・テクノロジー&イノベーションカウンシル議長も務めている。
OIST学長への任命にあたり、日本政府は、グルース博士の多岐にわたる研究事業を率いる豊富な経験、博士のビジョンおよび幅広い国際的ネットワークを評価した。世界中の卓越した教員と学生の採用の継続、日本の学術界におけるリーダーシップ、OISTと国内外の学術界および産業界との協力の発展、沖縄の今後の自立的発展におけるOISTの役割強化のために、博士の経験とネットワークは全て必要不可欠なものである。