WORLD(世界)

虹色の液体の中に見える複数の泡

ミクロの風景

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Saacnicteh Toledo Patino
 

無数の星

銀河 

Institute of Science and Technology Austria

宇宙の彼方へ:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像は、研究者が宇宙初期における銀河やブラックホールの形成過程を解明する手助けとなっています。

われわれの天の川銀河のような銀河は、ガス、星、惑星、ブラックホール、ダークマターで構成される宇宙最大の結合体です。ISTAのMattheeグループは、非常に遠い宇宙の観測を通じて、銀河とその構成要素がどのように形成され進化するかを決定する物理的メカニズムを研究しています。そのために彼らは宇宙の遠方の領域を観測し、ほぼピクセル単位で解析しました。色、グラデーション、形、ぼやけ具合、または天体同士の相対的な位置など、さまざまな情報を詳しく分析したのです。

この画像は、既知の中で最も遠く、明るい超巨大ブラックホールの一つであるクエーサー J0148+0600 を中心に捉えています。その光は、宇宙が現在の年齢の約6.5%だった128億年前(12.8×10^9年前)に放たれたものです。この画像は、2023年初頭にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラNIRCamで撮影されたもので、約200枚の画像を重ね合わせることで、約15,000個もの天体が映し出されています。JWSTは最適な露光を達成するために、合計約10時間にわたって撮像観測を行いました。

画像に映し出されている構造の多くは、ビッグバン宇宙初期のわずかな密度のゆらぎが種となり、形成されたものです。重力収縮の物理はよく理解されていますが、銀河内で起こる詳細な天体物理学的プロセスはまだ解明されていません。星の形成、超新星爆発、そして超巨大ブラックホールの成長は、銀河やその内部の星や惑星の運命に大きな影響を与えます。Mattheeグループの最も重要な科学的目標は、宇宙初期の再電離期を理解し、銀河内部での相互作用のメカニズムを解明することです。

(!)別の視点から: 画像中央のクェーサーは、宇宙で最も過密な領域の一部であり、この画像に写っている100個以上の銀河と関連しています。また、このクェーサーは「宇宙の果て」に非常に近いので、画像に写っている銀河のほとんどは、皆さんと画像中央の淡い紫色の星のような天体(クェーサー)との間に位置しています。

作者:Jorryt Matthee, Daichi Kashino (National Astronomical Observatory of Japan), Ruari Mackenzie (ETH Zurich), Simon Lilly (ETH Zurich), NASA, ESA, and CSA

網目状の楕円形の立体

珪藻

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Mehmet Arif Zoral
 

黒いまっすぐな水平線と、複数の曲線

弾む

Institute of Science and Technology Austria 
作者:Galien Grosjean
 

突起のあるグレーの円の中にある赤い不規則な複数の形

アクチンの尾

The Francis Crick Institute

ウイルスの乗っ取り: 牛痘ウイルスは宿主細胞のアクチン細胞骨格(灰色)を乗っ取って表面に到達し、そこで「アクチン尾部」(赤色)と呼ばれる突起を作り、隣接する非感染細胞に突き出す。 
 
牛痘ウイルスは天然痘に似たポックスウイルスですが、有害性は低いウイルスです。ウイルスはヒト細胞の多くのシステムを乗っ取り、細胞の複製と拡散を促進します。この過程にはアクチン細胞骨格(灰色)が関与します。アクチン細胞骨格は、細胞の形と構造を維持し、また細胞の動きを助ける足場と考えることができます。ウイルスは細胞骨格のフィラメントを使って細胞表面に到達し、「アクチン尾部」(赤)を形成します。 細胞の外側に伸びたこれらの小さな突起によって、隣接する細胞に向かってウイルスを押し出し、感染拡大を助長します。 
 
アクチンを蛍光赤色色素で染色し、感染した細胞を顕微鏡で画像化することで、ウイルスがどのようにヒト細胞を操作し、自らの利益のために変化させるかを観察できました。この研究を通じて、牛痘ウイルスがシグナル伝達や細胞骨格を利用して細胞システムをどのように乗っ取るのかについて、より深く理解することを研究者たちは目指しています。この研究は、ウイルス感染がどのように広がるかについての洞察を与えるだけでなく、細胞のシグナル伝達が破綻した際に細胞骨格が体内の不適切な場所に細胞を移動させることによって広がるガンのような、他のヒトの病気についての理解にも役立つことでしょう。 

作者:Gabrielle Larocque 
画像提供:Michael Way, Group Leader, Cellular Signaling and Cytoskeletal Function Laboratory

複数の白い粒の塊の前にいる1匹のクマノミ

白化したイソギンチャクとクマノミ

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

小笠原諸島は、東京から南へ1000キロ近く離れ、た場所にある小笠原諸島は、24時間フェリーに乗らなければ行くことができません。小笠原諸島は陸上と水中の両方にユニークな生態系を持ち、1972年以来、に国立公園に指定されましたています。その島々には多くの固有種が生息しており、広域分布種のクマノミも、他の地域とは異なる特徴を持つ特別な個体群がという非常に特殊な個体群も生息しています。クマノミの成魚は通常オレンジ色に白い帯が入っていますが、この個体群の成魚は、黒色に白い帯が入っています。写真の個体は幼魚なので、体がまだ黄色く、成長するにつれて黒く変化していきます。 

この魚の生態学と遺伝学を研究するためにサンプルを採集していた時のサンプリング中、私たちはその宿主であるイソギンチャクの多くと周辺いくつかのサンゴが白化していることに気づきました。白化は、水温の上昇などによってイソギンチャクが共生藻類を失うことで起こります。白化はイソギンチャクの成長に悪影響を及ぼし、死に至らせることさえあるのです。イソギンチャクが失われるとそして最終的には、イソギンチャクそこに共生しているする魚も死んでしまいます。 

たとえ隔離された島であっても、気候変動が生態系に及ぼす影響は、決して小さくないことを示しています。 

作者:Manon Mercader  

赤紫色の渦を巻いた曲線

円柱の後流

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Alessandro Monti
 

手に持った雹

積乱雲からの雹(ひょう)

Institute of Science and Technology Austria 
作者:Bidyut Goswami
 

黄色から茶色へと変化する煙のような形

乱流パフ

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Marco Rosti
 

白アリ

シロアリの武器

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Aleš Buček
 

5本の分割線が中心に向かって入りかけている縁が黄色、内側が緑、中心がオレンジの円形

 沖縄で発見されたDiscochitonの新種

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
作者:Jinyeong Choi
 

T、C、C/T、A、Gが横軸になった曲線グラフ

彼女は子供たちを殺していなかった

The Francis Crick Institute

遺伝子の謎と司法の誤ち: キャスリーン・フォルビッグは4人の子供を殺害した罪で有罪判決を受けましたが、子供たちの突然死は遺伝情報によって説明できることが科学的に明らかになりました。 

ヒトの遺伝子とその変異型についての理解が深まり、シーケンシング技術がより速く、より安価になったことで、健康と病気についての見方が完全に変わりました。点突然変異によって細胞に与える影響を検出できるようになり、また、病気が引き起こされる可能性がどの程度あるかを評価することができるようになったのです。カローラ・ビヌエーサと彼女の研究チームは長年にわたり、ループスを含む稀少自己免疫疾患に関連する変異を研究し、精密治療の指針としてきました。ある時、カローラは、とある複雑な事件を調査するために協力することになりました。遺伝子変異がこの悲劇的な殺人事件の真犯人である可能性があったためです。 

この画像は、4人の子供を殺害した罪で20年間刑務所暮らしをしていた母親、 キャスリーン・フォルビッグ の釈放と冤罪を晴らす鍵となった遺伝子の配列を示しています。DNA塩基配列解析画像中央の波形は、キャスリーンと2人の娘に共通するCALM2と呼ばれる遺伝子の重要な変異(C/T)を示していました。CALM2はカルモジュリンと呼ばれるタンパク質をコードしており、カルシウムシグナルと心臓の収縮の制御に関与しています。このタンパク質の機能不全は、心臓の不整脈や稀に幼児の死因に関係していることが知られています。   
 
キャスリーンの有罪判決に関する2023年の法的調査において、この変異型による心停止は、子供たちの突然死の合理的な説明として認められました。フォルビッグ家の息子たちも呼吸器障害と重いてんかんを患っていました。死因を特定するためにゲノム医学が法廷で用いられたのは、世界で初めてのことでした。 
 
サイエンスの力が知られるようになった現在、この裁判が今後の複雑な科学や遺伝的証拠に対する法制度のあり方に影響を与えることが期待されています。 

作者:Carola G. Vinuesa, Todor Arsov, Vicki Athanasopoulos, and Yafei Zhang

銀色の金属のような円形とその中にある青、黄色の円形

絡み合う光の粒子

Institute of Science and Technology Austria

光とは、可視の状態でも不可視の状態でも、常に私たちの周りにあり、科学者は光を用いて、現実の量子力学的性質を探求することができます。 

実験物理学者たちは、この画像のような特殊なガラスやその他の材料で作られた装置を用いて光を操作し、日常世界で不可能な量子力学的効果を実現しています。Rishab SahuとISTAの科学者らは、物理学の基礎的な理解を深め、将来の技術の基礎を築くために、このような装置を製作しているのです。 

量子力学の世界では、光には波としての性質と、光子と呼ばれる光の小さなパッケージである粒子としての性質があることがわかります。研究者たちは、2つの光子を密着させ、エンタングルさせる、すなわち絡み合わせることができます。エンタングルメントとは、量子コンピュータのような様々な新しい技術に利用でき、量子スケールにおける物事の特別な性質です。ISTオーストリアのRishab Sahuを中心とする科学者たちは最近、電子レンジに使われているような低エネルギーのマイクロ波光子と、私たちが目視できる光のような高エネルギーの光子のエンタングルメントに初めて成功しました。これは将来の量子技術にとって、重要な要素になるかもしれません。 

この目的で科学者たちは、(左下から直線で入射する)光ケーブルを通して三角プリズム(中央の小さな三角形)に光子を照射しました。プリズムは、平らな円盤(中央付近の青い円)のすぐ近くにあり、プリズムで反射されるはずの光子の一部は、トンネル効果と呼ばれる量子効果を利用し、円盤の中に飛び込むことができます。そこで光子は閉じ込められ、円盤の周囲を円を描くように移動し、マイクロ波光子を作り出します。プリズムで反射された光子と円盤から放出されたマイクロ波光子は、その後、もつれ合うのです。 

気が付かれないかもしれませんが、皆さんも光テクノロジーを毎日使っていますよ―スーパーマーケットでバーコードを読み取る光、レーザーで作られた製品、等々。私たちがものを見る目的以外に、他のどのような用途に光は使われているでしょうか? 

作者:Rishab Sahu, Thomas Werner, and Liu Qiu

紫色の束になった複数のひも状の中に見えている黒い点のある白い球体

多孔質媒体中のカオス的流れ 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

誰も知らない⽣命の流れを解き明かす:OIST では、極⼩の多孔質空間を蛇⾏する流体の隠れたダイナミクスを解明し、私たちの体内や都市の構造のライフラインにも密接に関連する流れを明らかにします。 

⽣物と都市構造の双⽅に不可⽋な未踏の流れを理解するため、OIST のマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットは、ミクロの世界に踏み込みました。ここでは、髪の⽑ほどの細さのガラスビーズの迷路を通り抜ける流体の複雑な流れを追跡しています。X線を⽤いた流動場の可視化、解析による繊細な探求を通じ、極⼩の空間における躍動感のある三次元的な流れが明らかになりました。 
 
この研究の焦点は「弾性乱流」であり、⾎液や粘液のような曳⽷性を持つ流体が狭い流路に流れる際⽣じる現象です。画像には、混雑した空間を⾃在に流れ、ダンサーのような動きが、鮮明に捉えられています。研究者たちは、この複雑な動きをより理解しやすくするため、流れの状態によって、⾊分けして⽰しています。不規則で予測不可能な流れは、明るい⻩⾊が付されて不安定であることを⽰し、⽐較的穏やかで安定した領域は紫⾊で⽰されています。特筆すべきは、流れの中央の膨らみが、乱流が交通渋滞のように抵抗を強めている部分を⽰していることで、⼩規模な動きがいかに⼤きな影響を及ぼしうるかを⽰しています。 
 

この画像では、微細な孔の間で展開する初期の弾性乱流の三次元的な複雑さを垣間⾒ることができます。レーザー・エッチングによって精巧に造形されたガラスビーズ・ネットワークは、この研究を可能にした精巧さと⾰新性の証となっています。

作者:Daniel Carlson, Kazumi Toda-Peters, Amy Q. Shen, and Simon J. Haward

色とりどりの粒状かたまりと曲線

ショウジョウバエのニューロン

The Rockefeller University

動物の行動は本能と学習の両方に基づいています。研究者は動物の脳を、個々のニューロンに至るまで研究し、こうした複雑な相互作用を解き明かそうとしています。 

ショウジョウバエのような最も小さな昆虫でさえ、生き残るために新しいことを学ぶことができます。Vanessa Rutaと彼女のチームは、どの行動が遺伝子によって決定されているのか、どの行動が経験から習得されるのか、そしてこれらがどのように相互作用するのかを研究しています。この目的のため、研究チームは、比較的単純で非常によく理解されているショウジョウバエの神経回路に注目しています。この画像は、環境の匂いを取り込み、その情報を処理するショウジョウバエの 「脳」にある特定のニューロンを示しています。 

動物は環境を探索するうちに、その環境に適応するよう学習します。例えば、どのような音が捕食者の攻撃に先行する傾向があるのか、どのようなにおいが夕食を予感させるのかを発見することで、一種の生物学的千里眼、つまり、すでに起こったことに基づいて、次に何が起こるかを予測する方法を身につけることができるのです。Vanessa Rutaとロックフェラー大学の共同研究者達は、動物の教育が、どのような経験によるかだけでなく、いつ経験するかにも依存していることを発見しました。研究者たちはショウジョウバエを研究し、いつその匂いが報酬に結びつくのかに依存して、ひとつの匂いが動物にとって良いものになったり悪いものになったりするかを示しました。動物は、細胞レベルで展開されるプロセスで、これらの記憶を素早く修正することができます。この洞察は、ハエだけでなく、動物界全体の学習にあてはまると思われます。 

 今度台所でショウジョウバエを見かけたら、果物の甘い香りを使って、ショウジョウバエの行動を訓練してみてはいかがでしょうか。 
  
作者:Annie Handler. Thomas G.W. Graham, Raphael Cohn, Ianessa Morantte, Andrew F. Siliciano, Jianzhi Zeng, Yulong Li, and Vanessa Ruta 

青い枠で囲まれた赤い複数の楕円形

適応し続ける免疫反応

The Rockefeller University

研究者たちは、SARS-CoV-2のような侵入者に対して、発病から数か月後でも免疫系がどのように適応し続けるかを研究しています。 

人体は微生物からウイルスに至るまで、多種多様な侵入者から身を守らなければならなりません。免疫システムの適応的な部分は、それらを検知し、再び侵入者が現れた場合にそれを認識するための特異的なレセプターを作り出します。時間が経つにつれて、免疫系はこれらのレセプターをより効果的なものに改良していきます。Michel C. Nussenzweigとチームは、体がどのように免疫反応を適応させ続けるかを調べるため、感染から3か月後の腸管細胞におけるSARS-CoV-2(緑色)の上記画像を作成しました。 

SARS-CoV-2を撃退した人々の数が増えるにつれ、重大な疑問が出てきています。 コロナウイルスに対する免疫力はいつまで続くのでしょうか? ロックフェラー大学のMichel C. Nussenzweigの研究室から発表された最近の研究によれば、COVID-19から回復した人は少なくとも6か月間、おそらくそれ以上ウイルスから守られていることが示唆されています。この発見は、免疫系がウイルスを 「記憶」し、感染が衰えた後も、抗体の質を向上させ続けるという強力な証拠です。感染から数か月後に産生された抗体は、SARS-CoV-2だけでなく、その後の亜種をブロックする能力も向上させていました。研究者らは、進化し続ける免疫細胞によって強化された抗体が産生されることを発見しました。これは明らかに、腸組織に潜むウイルスの残骸にさらされ続けたためです。 

 私たちの身体は世界から閉ざされているわけではありません。私たちは常に周囲のあらゆるものとの間で気体や粒子、微生物を交換し合っています。免疫システムは、何が体内に留まることを許され、何が排出されなければならないかを管理する永久的な仕事を担っているのです。 
  
作者:Christian Gaebler, Zijun Wang, Julio C. C. Lorenzi, Frauke Muecksch, Shlomo Finkin, Minami Tokuyama, Alice Cho, Mila Jankovic, Dennis Schaefer-Babajew, Thiago Y. Oliveira, Melissa Cipolla, Charlotte Viant, Christopher O. Barnes, Yaron Bram, Gaëlle Breton, Thomas Hägglöf, Pilar Mendoza, Arlene Hurley, Martina Turroja, Kristie Gordon, Katrina G. Millard, Victor Ramos, Fabian Schmidt, Yiska Weisblum, Divya Jha, Michael Tankelevich, Gustavo Martinez-Delgado, Jim Yee, Roshni Patel, Juan Dizon, Cecille Unson-O’Brien, Irina Shimeliovich, Davide F. Robbiani, Zhen Zhao, Anna Gazumyan, Robert E. Schwartz, Theodora Hatziioannou, Pamela J. Bjorkman, Saurabh Mehandru, Paul D. Bieniasz, Marina Caskey, and Michel C. Nussenzweig