日本の科学広報が変わる
3月19~20日にかけて、95名を超える科学広報担当者が沖縄科学技術大学院大学(OIST)に集まり、日本の研究成果の海外認知度向上を目指して新たな一歩を踏み出しました。
「国際科学広報に関するワークショップ2015」と題された本ワークショップでは、国内の大学や研究機関、政府機関の代表者が欧米のメディア専門家と一堂に会し、日本の科学ニュースを英語で広く世界に発信する戦略と戦術について2日間にわたり議論しました。
「科学広報担当者の集まりとしては、私が知る中では日本でかつてない質のものでした」と感想を述べたのは、京都大学学術研究支援室シニアURAの今羽右左デイヴィッド甫氏です。同氏は、「この場で私たちは、国際メディア関係について、既存モデルを打破する将来のビジョンを得ることができました」と語りました。
日本国内ではかなりの科学報道がなされている一方、日本の研究成果の大部分が海外メディアから目を向けられていない状態です。その主な原因については参加者の意見が一致しました。それは、科学と国際メディアの主要言語である英語を使って、研究成果の公表をタイミングよく行っている大学や研究機関が少ないということです。
OISTのニール・コールダー副学長(広報担当)は、「日本は、世界第3位の経済大国です。素晴らしいサイエンスが行われています。けれどもそれが見えていないのです」と述べた上で、「私たちが力を合わせれば、この問題を容易に解決することができます」と呼びかけました。
参加者は英語での科学広報に関するスキルの向上や取り組みを皆で協力して推進していくことで合意しました。この合意は、そのようなアウトリーチが、日本の研究・教育機関の評判を確立していく上で不可欠な役割を果たすという認識に基づいています。もし日本が世界トップレベルの頭脳を惹きつけたいと考えるなら、英語によるコミュニケーションが必須となります。しかしそのことを各機関の上層部に理解してもらうには時間がかかるだろうと、参加者の多くが指摘しました。
その指摘に対し、サイエンス・メディア・センター国際担当の角林元子氏は、「先に開始した大学が資金や優秀な学生を獲得するなど成功を収めていく姿を他の大学も目にすれば、この動きが広がっていくでしょう」と述べました。
現在日本には、専属のサイエンスライターを抱え、組織全体の広報を一元化して行う広報室を備えた大学や研究機関は数えるほどしかありません。そのような中、プレスリリースの業務を果たしているのは大学ではリサーチ・アドミニストレーターをはじめとする事務職員であることが一般的ですが、その多くはコミュニケーション分野の訓練を受けたことがありません。本ワークショップは、国内のリサーチ・アドミニストレーターや広報担当者など複数の登壇者が英語でプレスリリースを行った経験を分かち合い、日本語でのプレスリリースとのスタイルや内容の違いについて話し合う機会にもなりました。
米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校サイエンスコミュニケーションプログラム 講師 のロバート・イリオン氏は、サイエンスライターを養成するためどのように科学者にトレーニングを施しているかについて説明しました。これは日本ではまだ新しいコンセプトです。一般社会への科学アウトリーチにおいて、米国では大学や研究機関がこれまでにないほど大きな役割を果たしていることにイリオン氏は言及しました。
「そのような機関では必ずサイエンスライターが雇われています」と同氏は述べた上で、「この決まりに例外はないのです」と強調しました。
科学誌Scienceのアジア担当記者を長年務める デニス・ノーマイル氏やNew Scientist誌のエディトリアル・コンテンツ・ディレクターを務めるヴァレリー・ジェイミーソン氏を始めとする欧米の科学メディア専門家からは、科学ニュースをどのように報道し、ジャーナリストが科学記事に何を求めているのかについて説明がありました。
「情報価値のあるものを提供し、かつ読者を楽しませなくてはなりません。この『楽しませる』ことは、サイエンスコミュニケーションにおいて決して悪いことではないのです」とジェイミーソン氏は述べました。
日本における科学広報の文化を変えていく第一歩として、参加者は年に2回集会を開催してアイディアや成功例について意見交換し、疑問や課題を解決していくことに合意しました。またOISTは、実践形式の講習を今夏開催することを申し出ました。このプログラムでは英語の科学記事やプレスリリースの書き方について学ぶことができます。
変化を起こすことは簡単ではないと認識しつつも、多くの参加者が希望を胸に本ワークショップを後にしました。
「本当に素晴らしい大会でした」と、本ワークショップをOISTと共催した科学技術広報研究会会長で高エネルギー加速器研究機構広報室長の岡田小枝子氏は感想を述べ、「皆、日本の科学を一緒に推進していこうという熱意にあふれています」と語りました。