銀:ペロブスカイト太陽電池のコスト低減に最有力の電極材料
ペロブスカイト太陽電池は太陽光発電における希望の星と言えます。ペロブスカイト太陽電池はほぼすべての可視波長の光を吸収し、実験値で20%を超える非常に高いエネルギー交換効率を有しているうえ、比較的容易に製造できます。それにも関わらず、なぜペロブスカイト太陽電池パネルは普及していないのでしょうか。問題として、全体のコストが高いこと、また、安価なペロブスカイト太陽電池の寿命が短いことがあげられます。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のエネルギー材料と表面科学ユニットが、科学誌「Advanced Materials Interfaces」に発表した論文で、銀電極を用いたペロブスカイト太陽電池の寿命が短い原因を究明しています。
現在、ペロブスカイト太陽電池の最も一般的な電極材料は金ですが、コストが非常に高くつきます。金に代わる安価な材料が銀であり、コストはおよそ65分の1です。OISTの研究チームは、更にコストを下げるために、高価な真空蒸着法に代わる溶液処理法を用いて層状太陽電池を製作しようと試みています。ところが、銀電極と溶液処理法を用いると、太陽電池製造後の数日間に銀が腐食してしまうという問題がおこります。すると、腐食により電極が黄色に変色し、電池のエネルギー変換効率が低下します。ヤビン・チー准教授率いるOISTの研究チームは、劣化の原因を検証し、ひとつの解釈を提示しました。
ペロブスカイト太陽電池は、光を電気に変換するサンドイッチ状の層で構成されています。ペロブスカイト材料で吸収された光によって電子が励起され、電子と正孔のペアが生成されます。簡単に言うと、正孔とは、励起されて自由になった電子の抜け穴です。励起電子と正孔は、太陽電池の隣接する層によって逆方向に移動していきます。この層は、電子輸送体である二酸化チタン層、spiro-MeOTADホール輸送層、透明な導電材料で被覆されたガラス層、および銀の上部電極で構成されています。このメカニズム全体によって電流が生じますが、太陽電池の各層が適切に機能しなければ効率的に電力を生み出すことはできません。チー准教授の研究グループリーダー、大野勝也博士は、「ひとつでも機能しない層があれば、全体が影響を受けます」と説明します。
本研究でOISTの研究チームは変色した銀電極の組成を分析し、変色の原因がヨウ化銀の生成にあることを突き止めました。変色の原因は、銀の酸化によるヨウ化銀の生成にあったのです。また、乾燥窒素ガスと比べて、空気にさらした場合に腐食が進むことが分かりました。
本研究チームは、ヨウ化銀が生成される原因として、外気の気体分子がペロブスカイト材料に達し、ヨウ素含有化合物を生成することでペロブスカイト材料が劣化すると、この劣化のメカニズムを解釈しています。そして、このようなヨウ素含有化合物が銀電極に付着し、腐食を引き起こすというわけです。気体分子とヨウ素含有化合物はいずれもspiro-MeOTADホール輸送層にある小さなピンホールを通過して移動することが予想されます(動画をご覧ください)。溶液処理法を用いて作製されたspiro-MeOTADホール輸送層にあるピンホールの存在は、同研究ユニットの学生、ザファー・ハワッシュが数ヶ月前に突き止めました。
太陽電池のコストを抑えるには、金を銀で代用し、溶液処理法を用いることが鍵を握ります。OISTの研究チームは、腐食のメカニズムを理解することが電極の寿命を延ばす第一歩になると考えています。太陽電池の寿命を延ばすには、spiro-MeOTADホール輸送層にピンホールができないようにすることが不可欠です。同研究グループはすでに真空蒸着法によるピンホールの除去に成功しており、現在は、溶液処理法を用いたピンホールの無い太陽電池の製造に取り組んでいます。チー准教授は、「ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽電池技術として商業利用が期待されます。私たちの研究室では、最適なホール輸送層及び被包材を用いることで、寿命が長く、大面積に対応した低価格の太陽光電池モジュールを設計・作製することを目指しています」と抱負を語ってくれました。
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