最近の研究
1) 能性RNAのデザインとエンジニアリング(横林ユニットのメンバーとして)
これまでに、核酸化学・工学(横林)ユニットのメンバーとして、大腸菌やヒトの細胞(HEK293)内で遺伝子発現を人為的に制御する人工リボスイッチの開発研究に従事してきました(K. Fukunaga et al, J. Am. Chem. Soc. 145(14), 2023, 7820–7828. doi: 10.1021/jacs.2c12332 等)。近年、この研究に加え、低い反応効率のため、これまで分子選択実験で見落とされてきた、非常に小さい活性部位を持つRNA結合リボザイム(RNA酵素)の探索にも注力してきました(Y. Nomura and Y. Yokobayashi, Nucleic Acids Res. 47(17), 2019, 8950-8960. doi: 10.1093/nar/gkz729; Y. Nomura and Y. Yokobayashi, Sci. Rep. 13(1), 2023, 8584. doi: 10.1038/s41598-023-35584-9)。このような小さいリボザイムは、生命の起源に関連する「RNAワールド」においてRNA配列がどのように複製されていたかを考える上で興味深い分子です。
2) 芭蕉布研究(PIとして)
共同研究者:小泉好司博士(OIST イメージングセクション);森理恵教授・柿原文子元特任教授(日本女子大学);川﨑久子准教授(新潟薬科大学);芭蕉布工房(大宜味村喜如嘉)
芭蕉布は琉球(古い沖縄)の有名な織物で、糸芭蕉の繊維から作られます。 「喜如嘉の芭蕉布」は国の 重要無形文化財ですが、その生産量は減少しています。この増産のために、私達は、科学と文化史の両面から、芭蕉布とその材料(材料植物や繊維など)を分析しています。私達は、このような研究を通して、沖縄への地域貢献も目指しています。
1)高級な芭蕉布
今日、伝統工芸品としては主に高級な芭蕉布が作られますが、私達はこの高級な芭蕉布が作られる伝統的な方法の巧みさを、材料の微細構造の変化により科学的に解明しました(Y. Nomura et al., J. Fiber. Sci. Technol. 73(11), 2017, 317-326. doi; 10.2115/fiberst.2017-0039)。さらに芭蕉布工房他と共同で、この結果を基に、2018年に展示会とシンポジウムを開催しました。芭蕉布の生産を改善し、保存するという共通の目的を持つことから、芭蕉布工房と私達は良好な関係を築いています。私達は最近、バクテリア処理による最小限の伝統法の改良を提案し(Y. Nomura and K. Koizumi. Fusion of Biotechnology and Craftsmanship: Bacterial Treatment to Improve Bashofu Fiber Extraction. Journal of Natural Fibers, 21(1), 2024. Article number: 2351166. https://doi.org/10.1080/15440478.2024.2351166)、着物用の高級糸「ナハグ」についての解析も進めています。
2)低級な芭蕉布
高級な芭蕉布は上流階級のものでしたが、質の劣る芭蕉布は庶民の夏の衣服に利用されていました。そこで、私達は質の劣る芭蕉布に使われたであろう、芭蕉布繊維の簡易抽出法を構築しました(柿原他, 日本家政学会誌72(12), 2021, 818-828. doi:10.11428/jhej.72.818)。また、文化史研究では、民藝(民衆的工藝)運動を起こした柳宗悦が、庶民の芭蕉布には注目していなかったことに注目しました(R. Mori, F. Kakihara and Y. Nomura, J. Asian Conf. Des. Hist. Theory No. 5, 2024)。このような庶民に関する芭蕉布の研究は、伝統的な芭蕉布を基にした、日常使いの新しい布の創出の役に立つでしょう。