進化発生学の新たなステージを拓く

安岡有理研究員がカエルの頭部の発生メカニズムを解明しました。

   7月9日、沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニットの安岡有理研究員(日本学術振興会特別研究員)により、東京大学との共同で、カエルの頭部の発生メカニズムに関する研究論文が発表されました。これまで、頭部の発生に関わる遺伝子の存在や、さらにそれらの遺伝子によって調節を受ける標的遺伝子の存在は知られていたものの、実際にそれらがどのように繋がり、影響を及ぼし合いながら頭部を形成するのか明らかでは有りませんでした。安岡研究員は、一度に大量のゲノム解析を可能とする次世代型シークエンサーを発生学に応用し、胚発生における「ゲノムの機能」を効率的に解析することで、これまでの知見を統合し、頭部という主要器官形成の遺伝的メカニズムの一端を解明しました。

   生命が種の特徴を維持しながら、いかに誕生し、また進化していくのか、生命の根源を探求することは、生命科学研究の中核を担うテーマです。特に細胞の核に存在するデオキシリボ核酸(DNA)が、体を形作るタンパク質をコードする遺伝子の本体であると判明されて以来、遺伝学研究は飛躍的な進歩を遂げました。さらに21世紀に入り、ゲノム解析手法の確立により、全ヒトゲノムの解読をはじめ、遺伝学研究は最盛期を迎えています。以来研究対象は、どのような遺伝子がどこで働いているのかを解明することに始まり、現在は個々の遺伝子が互いにどのように影響しあうのか、その結果生体の構成にどのような影響を及ぼすのか、という段階に推移しています。

   安岡研究員は、受精卵における初期発生の過程で、頭部が形成されるために必要な遺伝子を制御すると考えられる、タンパク質数種類を配合したHead Organizer Cocktailを作成し、カエルの初期受精卵に注入しました。すると、本来は腹部として分化すべき組織に頭部の発生が確認され、これらのタンパク質が周辺組織に頭部発生を促す働きを有していたことが立証できました。またさらに、上記のタンパク質を欠損させた場合は、頭部の形成が行なわれないことも確認しました。次に同研究員は、これらのタンパク質がゲノム上のどの位置に働きかけ、頭部形成に関わる遺伝子とどのような関係を保っているのか解明に乗り出しました。次世代型シークエンサーで、これらのタンパク質が結合しているゲノム領域を解読し、その領域とゲノム上の位置を重ね合わせ、マッピングしました。これらのタンパク質は転写因子と総称され、各々が近傍の遺伝子の働きを促進、または抑制する働きを持つことは既に明らかにされていました。その上で本研究のマッピングでは、これらのタンパク質が結合するシス制御領域と呼ばれるゲノム配列を介して、頭部形成に関わる遺伝子がどのように活性化、または抑制されているかを評価することができ、より詳細な遺伝子発現の制御機構を知る手がかりを得ることができました。

   個々の発生の積み重ねが、長い年月を経て進化に繋がります。「進化は永遠に続き、その探求もまた永遠に推測の域を出ることができません。私たちにできるのは、実験可能な生物の情報をより多く集め、幅広い科学の知見を駆使して、進化の歴史を埋めるよう努めることです」と話す安岡研究員からは、発生から進化を紐解く同研究に対し、強い情熱が感じられました。

Nature Communications に掲載された論文は、こちらからご覧になれます: http://www.nature.com/ncomms/2014/140709/ncomms5322/full/ncomms5322.html

東京大学のプレスリリースは、こちらからご覧になれます: http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2014/32.html

(西岡真由美)

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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